ツキシロとオニガラス

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ツキシロとオニガラス

屋敷から歩くこと半時、人目を忍んで行ったため時間がかかった。 天高く登ったお天道様も疲れたのか頬を真っ赤に染め上げ地平へと帰っていく。 赤みがかった淡い光を深緑の葉が照り返す林の中、古寺が建っていた。 屋根は半分崩れ落ち、緑の苔で覆われている。小さな小さな古寺で一つしかない座敷からは竹が数本、障子の骨組みから顔を出していた。 「やい鬼烏!顔を出しやがれ」 猫が古寺の前で甲高く鳴くと、風が辺りの竹林を揺らした。 ザザザ... 枝々が呼応するように騒ぎ出す。 そのざわめきの中声がした。 「その声はツキシロか」 ひらり.. 葉が目の前に静かに降ってきた。 ひらり..今度は窪んだ屋根瓦の上に  ━━━それは竹炭のような黒い葉だった。  音もなく瓦に降り立つ。 真っ黒な眼。真っ黒な身体。漆黒のカラスだった。 「さぁて。...ツキシロ、お前の後ろにいる猫。そりゃ何だ、人間のようにも見えるが」 「お前が喰った人間が作った人形さ。」 猫はそう言うと人形に前に出るよう促した。 「ほう..忌まわしき人間の作ったモノか」 カラスは喉元から不快なものを押し込めるように低く呟いた。 「お願いします」 人形は意を決し、真っ直ぐにカラスを見上げ声を張り上げた。 「ご主人様を元に戻して下さい」 カラスは人形を睨んだまま答えない。
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