花のことば4

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花のことば4

 花瓶から「ごめんね」と枯れた花を出し、新しい花を吸水スポンジに生け直す。  子供の頃に体が弱く入院がちだった薫は、見舞いの花や窓から見える木々に癒され花好きになった。今はすっかり元気だが、成長期に病気をしたせいで身長は伸びなかった。  それに比べて高校時代すでにプロでも通用すると言われた島崎塁は、憧れを通り越して雲の上の存在だった。 (僕をさくら草みたいだと言ってくれた忘れられない人……)  世界には五百種類以上あるその花のように、色々な人がいて良いと言われた気がした。その言葉に励まされ、有名な華道家で地元で花屋を営む沢木に弟子入りしたのだ。勉強はするようにと言われ、学校に通いながら花のことを一から教わった。  花を贈る時に知っていた方が良いからと、花言葉の本も読んだ。そこでさくら草の花言葉の中に「初恋」を見つけた薫は、自分が塁に恋をしたのだと知った。  次に行こうとしたら、客室の前に何か落ちている。拾い上げるとブランドの長財布だ。フロントに届けようか迷ったが石田は忙しそうだったし、恐らくこの部屋の人の物だ。そう思い薫はドアをノックした。  少し待ったが人が出てくる気配はない。もう眠っているかもしれない。それなら反対側の花を生け直してから石田に届けても良いだろうと、薫は花切り鋏を入れるウエストポーチに財布をしまった。  その時ドアが開き、中からバスローブを着た塁が出てきた。目の前の見上げるような大きな体に、薫は言葉が出ない。 「…………!」  塁も驚いた様子で薫を見つめてくる。慌てて財布を渡そうとポーチに手を掛けた時、ふいに塁に顎を持ち上げられた。 「兄貴が人を呼ぶって言ってたけど、きみ?」 「えっ?いや、僕……」  手が震えてファスナーが開けられない。 「堅物の兄貴にしては気がきくな。男とはやったことないけど、お前なら抱けそうだ」  薫の手が止まる。 (抱……く?えっ!もしかして誰かと間違われてる?)  おそらく風俗の人と勘違いされたのだと気づいたが、手を捕まれた薫は強引に部屋に引き入れられた。 「あっ……」  薫の背後でドアが閉まった。  
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