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「すまない。僕だって何度か会いに行こうとしたのだ。だが、僕は源氏に追われる身。危険から遠ざけるため、お前たちを都に残したというのに僕が会いに行ってしまってはみすみす危険にさらすことになる。だから決心がつかなかったのだ。それに…正直言うと自分で言ったこととはいえ…凪子が他の男と一緒になって幸せなっているかもしれないと思うと現実を知るのも怖かった」
「それならせめて文くらい…」
「仕方がなかったのですよ、母上」
凪子に責められ、申し訳なさそうに謝る維盛をみて同情したのは一姫だった。
同じ女として責めたくなる母の気持ちもよくわかるが、父には父の事情があったのだと今ならわかる。
平氏が虐げられる世の中で平家の重圧はどんなに辛く、父を苦しめてきたことだろう。
凪子や一姫だって維盛の妻子と言うだけで罵声を浴びせられることもあったし、決して楽な世の中ではなかった。だったら平家の看板を背負った維盛は尚更生きにくい世の中だったに違いないのだ。
だから名だって捨てざるを得なかったのだろう。
「母上、父上を困らせてはなりません」
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