プロローグ

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1177年、春。 平清盛(たいらきよもり)により平氏が繁栄を極めた平安時代末期。 京都の六波羅(ろくはら)にある小松谷(こまつだに)に屋敷を構える平維盛(たいらこれもり)は20歳ながらも妻と子に囲まれて幸せな日々を過ごしていた。 ある日の昼下がり。 屋敷の中庭には維盛と男女の子供2人の姿があった。 子供たちは父と遊びたくて嬉しそうにキャッキャとじゃれついている。 「さぁて、チビたち。これから父が蹴鞠(けまり)を教えてやろう」 蹴鞠は貴族たちの間で流行している娯楽の1つであり、大会まで開かれるほどであった。 維盛も例にもれず嗜んでいてその腕前はなかなかのものだ。 この平維盛という男は案外器用で大抵のことはそれなりにこなしてしまうのである。 そこで子供たちにも世間から遅れをとらないよう、早いうちに覚えさせたいと思ったに違いない。 「維盛様。大丈夫なのですか?まだ蹴鞠を教えるには早いのでは?」 そんな彼らを屋敷の簀子(すのこ)から心配そうに眺めるのは維盛の妻・凪子(なぎこ)だ。 「そんなことはない。僕の弟たちもこのくらいの時はもう蹴鞠をして遊んでいたぞ」 「しかし六代はともかく…一姫はまだ2つなのですよ」
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