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一姫は嬉しそうにキャッキャと笑顔を浮かべてぎゅっと維盛に抱きついている。
―一姫だけズルいわ。
我ながら子供たと思うが、凪子は一姫にヤキモチを妬いていた。
「一姫、泣き止んだならそろそろ父上の上から降りたらどうかしら?」
口を尖らせた凪子に気づいた維盛は首を傾げた。
「どうした、凪子。さっきまでは僕に怒っていたのに」
「だって一姫だけ維盛様に抱きかかけられてズルいわ」
思いもよらない凪子の言葉に維盛はプッと噴出した。
「なんだ?またヤキモチか?可愛いことを言ってくれる。それなら…」
維盛は泣き止んだ一姫を地面に降ろし、階(きざはし)に歩み寄ると足をかけた。
そして両手を広げ、にっこりと微笑んだ。
「凪子、おいで」
「維盛様」
凪子は少し恥ずかしそうに頬を赤らめながら彼の胸に飛び込んだ。
すると体はふわりと浮いて維盛に抱きかかえられた。
着物だけでもかなり重量があるというのにしっかりと抱きかかえられるあたり、維盛は見た目よりも逞しいらしい。
「これでヤキモチを妬く必要がなくなったな?」
「はい」
2人は見つめあい、微笑みあった。
維盛と凪子は政略結婚にもかかわらず、それはもう仲睦まじいおしどり夫婦だった。
互いに愛し、愛され、子宝にも恵まれてこれからもこの幸せがずっと続くと信じていた。
だが、そんな彼らを引き裂くように運命の歯車は動き始めていた。
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