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「和哉くん、おもしろーい!」
和哉が女の子たちに囲まれてるこの状況が嫌だと感じ始めたのはいつだったっけ。
「やばい。イケメンすぎ」
1歩ずつ近づいていくごとに手に力が入る。
「ねぇ、今日もどっか行こーよ!」
和哉の腕を掴む女の手を無理やり引き剥がして言う。
「今日は…俺が先に約束してたから!」
今度は俺が和哉の手首を掴み、駆け出す。
戸惑う和哉の声が聞こえるけど、今はちょっと無視をして走り続ける。
大学を出て、人通りの少ない路地に入ったところで走るのをやめる。
「瀬凪…?どうしたの?」
心臓が今までに無いほど速く動く。
「和哉が、女の子たちに囲まれてるのが嫌だったんだよ」
声が震える。
和哉に背を向けたまま、振り返ることが出来ない。
「それは、嫉妬…?」
和哉も声が震えている。
でもこれは俺とは違うものだ。
「瀬凪、こっち向いて?」
恥ずかしさが増していく。
振り返ってその恥ずかしさを隠すように早口で言う。
「好きだよ!俺は和哉が好…」
言い終わる前に抱きしめられる。
強い力が心地よい。この温かさがいい。
「俺もだよ。瀬凪が好き。…よかった。やっと瀬凪を俺のものにできる」
「…遅くなってごめん」
声がいつもより高くて上擦っている。
心臓のドキドキも止まらない。
白い息が空気中に消えていく。
俺らの心が通い合ったある冬の日。
俺たちは幸せだった。
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