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自分に自信がなくて…
【大学にて】
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「「「お誕生日おめでとーーーーっ!!!」」」
俺は学生食堂の大きな机で友達とその一人である藤野みなみの誕生日を祝っていた。
みなみは同じ学科の明るく天真爛漫な女の子だ。誰にもノリよく接する良い子で喧嘩したところは見たことがない。
1年の頃、新入生歓迎会で仲良くなった彼女と今ここにいる仲間とはよく一緒に行動するほどのなかだ。
「えへへ、今年もお祝いしてくれて有難う!おかげさまでみなみも22歳になっちゃいました〜!!」
「やば!22かぁ〜!ついこの間までピチピチの10代だったのにな〜!」
「ズバリ!今年の抱負は??一言でどぞーー!!」
ワイワイ騒ぐ仲間。一緒になって笑っていたら、みなみに笑顔を向けられた。その笑顔にドキっとした。
…友達と言ったが、彼女だけは俺にとって特別だ。
彼女とは仲良くなってから、1年の授業で何かと同じ班や近くの席に割り振られることが多く、接点が多かった。
特に苦手な英語のクラスでは隣の席になった時にいつも手助けをしてくれた。
授業だけじゃない。アルバイトや進路のことなど、困ったことがあればなんでも相談に乗ってくれた。
だから彼女が困っている時はなんだって力になった。
リーダーシップがあって、優しくて、頼りがいのある性格。
一緒に話しているとこちらまで明るい気分になる。
そんな彼女に俺はずっと片想いしていたのだ。
俺は大学院に進学するが、彼女は今年で卒業してしまう。勇気がなくてずっと思いを伝えられなかったが、学部生生活最後の年である今年中には絶対に伝えなくてはと思っていた。
…と、そんなことを考えていたら一人が突然話の話題を変えた。
「はいはーーい!みんな注目!!ここで22歳になったみなっちゃんから報告があるみたいでーす!!」
報告?就職先の話以外にまだ大事な話があったのか。
「え〜?なんだよ大事な話って!」「なになに?すげー気になる!」
「もー菜々ちゃん声でかい!ふふっ、実はですね〜」
照れ臭そうに溜めてから、いつもの明るい声で続けた。
「みなみ、ついに……彼氏ができました!!!!!!」
え……
「「えええーマジで!?!?!?」」
どう言うこと…
みんなびっくりした後、さっきと変わらない調子でその話題に触れた。
「みなみ〜卒業まで彼氏できないとかネタにしてたくせに抜け駆けしやがったなー!でも、おめでとう!!」
「うわぁーみなみ狙ってたのにな〜!」
「ばーか、お前はもう彼女いるじゃねーかよ」
「冗談だっつーの!」
ガヤガヤと盛り上がる仲間、でもどの声も雑音に聞こえてなにも入ってこない。
頭が真っ白とはこのことを言うのか、と言うくらいになにも考えられなかった。
「どした?ボーッとして。違うこと考えてたか?ま、川ちゃんからもなんか言ってやれよ!」
仲間の一人に声をかけられてハッとした。
「あ、ああ…おめでとうな、みなみ!」
なんとかいつものトーンで声をかけることができたが、これが今の自分にできる精一杯だった。
今のこのぐちゃぐちゃとした感情はまだ誰にも気が付かれていないようだった。
「ありがと、はじめちゃん!はじめちゃんにもいろいろ相談に乗ってもらってたし、感謝してるんだよぉ〜」
デートに行くならどういうとこが喜ばれる?とか、男の子はどういうプレゼントをすると喜ぶの?とか…確かに相談に乗ってあげてたけど、まさか気になっていた男を喜ばせるためにしていた相談だったのか。ちょっと期待してた自分が恥ずかしかった。
うりゃうりゃとふざけて俺の頬をつつくみなみ。その眩しい笑顔も他の男のものになってしまうと思うと苦しくてたまらなかった。
ふられたわけでもないのに、切ない。
苦しくて苦しくて苦しくて。
こんなことならもっと早く想いを伝えていれよかった。
今日まで何年間・何回チャンスがあったと思う?
ほとんど一緒にいた仲だったのに。
なんで、いつも告白しない理由ばっかり作っていたんだ俺は…どうして…。
しかたなかった?勇気がなかった?うるせぇ!
もう何を考えたって、行動しなかった俺のせいに変わりはないし、みなみと結ばれるわけじゃない。
…あーあ。こういう押しの弱いところ、大ッッッッ嫌いだ。
「どーしたの?はじめちゃん??」
このまま声を出したら、どうなってしまうかわからないくらい精神がおかしくなっていた。振り絞れるだけの力を振り絞ってなんとか平然とした態度で続けた。
「とにかく!卒業前にみなみが幸せになれてよかった!卒業しても俺らに連絡くれよ〜」
「まだ卒業まで半年あるじゃーん!ほんとにどうしちゃったの〜はじめちゃん?」
…
……
その晩、俺はどうしても自分がどう思われていたのか確かめたくて思わずみなみにLINEを送っていた。
単刀直入に「今更だけどずっと好きでした。」って伝えてみたり「俺のことどう思ってた?」って聞けばいいものを、ここでもやっぱり勇気が出ずに曖昧な言葉をかけてしまった。
告白する勇気もフラれる勇気もないのだ。
『今日はおめでとう!それで、ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ』
『ありがとう〜!ん?どした?』
みなみは返信が早い子だ。5分もしないうちに返信がきた。
俺はこういうのは気が向いたら返す主義だが、彼女からの連絡にはいつも早めに返す様に心がけていた。
「なんでだまって彼氏なんか……なんて送れないし、えっと…」
『今日話してた彼氏っていつ会ったって言ってたっけ?』
何聞いてんだ。わざわざここで聞くことじゃないだろ。
『なんだそんなことかー。去年の冬くらい!でも急にどうしたの?今日もなんか元気なかったよ?』
彼氏でもなんでもない俺のくだらない質問にちゃんと答えてくれて、おまけに心配までしてくれて。どこまで優しいんだ。もっと自分が情けなくなってきた。
『ごめん、ちょっと考え事してたんだ。なんか、みなみが遠くに行っちゃうような気がして。来年はバラバラってのもあるんだろうけどさ、少し寂しく感じるな。』
今の自分にしては上出来の文章だった。けれどこの文章を送ってからしばらく返信は来なかった。それも何十分も。勘の良いみなみにはきっと俺が片想いしていたことがバレてしまったのだろう。
急に恥ずかしくなって送信を取り消そうとスマホを手に取ったちょうどその時、みなみからの返信が通知になってロック画面に現れた。
『もー、はじめちゃんったらそんな心配しなくていいよー!』
『みなみのこと好きだったの…?もしそうだったら気付いてあげられなくてごめんね><でも、みなみにとってはじめちゃんはずっと大切なお友達だよ。お付き合いはできないけど、これからもずっと』
2通目にドキリとした。とても優しい言葉で書かれていたが、はっきりと付き合う気はないことが伝わってきた。
しかし、間髪入れずに3通目がホーム画面に現れた。
『彼氏ができても、みなみにとってはじめちゃんはずっと大切なお友達だよ。卒業しても仲良くしてねー!』
2通目を短くしたような文面。数分おいてトーク画面を開くと、2通目は送信取り消しになってしまっていた。俺を傷つけないようにしてくれたようだ。
目を閉じて一呼吸置いてから、『ありがとう、おやすみ』とだけ送信してスマホの電源を切った。
再び目を閉じると、これまでのみなみとの大学生活の情景が蘇ってまた悲しくなった。
全部この暗闇にのまれてしまえば良いのに…。もっと強く目を閉じて、なにも考えないようにした。
そうやって感情を無にして机に突っ伏していたら次の朝まで寝てしまっていた。
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