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可愛い助手はダークな友達
「おい先生、空とぶ化けもんはどのあたりにやって来るんだ?」
あらぬ方を向いてぼうっとしている僕に気づいた藤野が、いきなり背中から僕をどやしつけた。うろたえた僕は「いや、その……予想外の展開が」と、下手な返しをするのが精一杯だった。
「ふうん、何だその予想外って」
狼狽する僕が面白いのか、藤野は舌なめずりせんばかりの顔で追及を始めた。
「うちの助手が……勝手についてきちまったんだ」
こいつの場合、下手に取り繕うとかえってことを悪くしかねない。僕が正直に打ち明けると、藤野のいやらしく細められていた目が丸くなった。
「助手だって?」
僕がさて、どこから説明すべきかと思案を始めた、その時だった。
「ジョシュならここだ」
いきなり背後で声がしたかと思うと、見慣れた少女が姿を現した。驚いたことに、どこで手に入れたのか、丁シャツとショートパンツというアクティブな装いに衣替えまでしていた。
「助手って……この女の子のことか?なあお前、お化けの話なら少々、ぶっ飛んででもとやかくはいわねえが、犯罪紛いのことをされると俺の立場までやばくなるんだぞ?ん?」
「編集者が連れてきたんだよ。一週間のお試しってことで、居候させてるだけだ。
僕がしどろもどろになりながら説明すると、いきなり冥花が藤野に向かって叫んだ。
「あたし冥花!……ねえ先生、このヒゲも先生のジョシュか?」
藤野は小さな目を二、三度瞬かせた後、「おい、お嬢さん」と凄みのある声で言った。
「こいつが俺の手伝いをすることはあっても、俺がこいつの助手だったことはない。覚えとけ」
「ふうん……じゃあなんだ?」
「冥花、こいつは僕の友達だ」
「友達?」
冥花は僕の言葉を反芻すると、興味深げに藤野の顔を覗きこんだ。
「先生の友達なら、あたしの友達だ。よろしくな、友達!」
「なんだと?」
藤野が冥花の放ったゆるいカウンターにずっこけそうになった、その時だった。不気味な羽ばたきの音と共に、風のようななにかが僕らの間を通り抜けていった。
「なんだ?」
僕は思わず「嘘だろ」と口にしていた。ちょうど、この辺を空とぶ怪物が通り抜けるぞと藤野に言おうとしていたところだったのだ。
「先生、あそこ」
いきなり声がして、僕が顔を向けると冥花が対岸の草むらを指さしていた。冥花の指さすあたりを目を凝らして見つめると、鳥とも人ともつかぬ影がこちらをうかがいながら潜んでいるように見えた。やがて、甲高い雄たけびのような物が聞こえたかと思うと、再び羽ばたきの音がして影の気配が消え失せた。
「逃げた。……でもたぶん、また来る」
冥花は空の一点を見つめると、何かを確信したかのような口調で言った。
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