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ダークな女神に打ち明けて
三つの異形のうち、中でも僕の目を惹いたのは天井に貼りついて長い蛇の尻尾でスキュラとかいう怪物を宙づりにしている女性型の怪物だった。
――見覚えがあるぞ!あれはたしか、公営住宅のロケで……
僕が記憶をまさぐっていると、「目を閉じろ!」と聞き覚えのある声が飛んできた。
「ご、ごめんっ」
僕は再び目を閉じ、どうか正義が勝ちますようにと心の中で祈った。やがて「ちっ、今日はここまでか。よくも私の犬たちを傷めつけてくれたな。覚えていろ!」という声が聞こえた。
僕がおそるおそる目を開けるとスキュラと蛇少女は消え失せ、へたりこんでいる冥花の姿が見えた。僕は冥花に駆け寄ると、ぐったりと力を無くした冥花の身体を抱きかかえた。
「大丈夫か、冥花」
「大丈夫だ、先生。……それより目を開けたらだめだ」
「すまない。でもあの蛇少女、どこかで見た気が……」
「だから目を閉じろと言った。……大丈夫、また忘れる」
「忘れたくないな。だって僕はあの子のことが、妙に……」
「あの子?」
冥花が閉じかけていた目を開けた、その時だった。暗闇の向こうから、声が聞こえた。
「メイカ。なぜ私を助けた?」
声は人の声でありながら、この世の物ではないような奇妙な響きを持っていた。
「助けたわけじゃない。あいつの乱暴を止めただけだ」
冥花が闇に向かって言うと、しばしの沈黙の後「……まあいい、一応、礼を言っておく」という声と羽ばたきに似た音が聞こえた。
「冥花、誰と話してたんだ?」
怪物たちの気配が消え失せ、しんと静まり返ったトンネルで僕は冥花に尋ねた。
「知り合いだ。でも仲良しじゃない。変わった奴だ」
お前も相当、変わってると思うんだが……そう思いながら、僕は冥花の手を取った。
「冥花、怪物から助けてくれてありがとう。君のおかげで命拾いしたよ」
僕が礼を述べると、冥花はなぜか困ったように「いいんだ。あたしは先生を守るためにこっちにきたんだから」と言った。
「こっちに来た?僕を守るために?」
僕は頭に浮かんだいくつもの疑問符にとりあえずふたをすると、冥花の肩を叩きながら「とにかく、帰ろう。正義の味方のために、とびきりの卵料理を作ってやらなきゃ」と言った。
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