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ダークな出会いにときめいて その4
――その人間は私の獲物だぞ、スキュラ!
振り返ると建物から出てきた先ほどの怪物が、新たに現れた怪物を怒りに燃える目で睨み付けていた。
――ふふん、冥界のお姫様が人間界にデビューかい。あいにくだが狩りのいろはも知らないお嬢さんの出る幕じゃないよ。おとなしくあたしの狩りでも見てるんだね。
怪物は空中高く舞い上がったかと思うと、僕に向かって襲い掛かろうとした。もう駄目だ、殺される!僕が一瞬、死を覚悟したその時だった。突然、鼻先を生臭い風がなでたかと思うと、僕の身体にぬるぬるした蛇のような物が巻きついた。
「わ、わあっ」
僕に巻きついた蛇はなんと、最初に現れた怪物の下半身だった。怪物は僕を高々と持ち上げると、もう一体の怪物から守るかのように背後に隠した。
「心配するな。お前を殺すつもりはない。『タリス』をいただくだけだ」
少女の顔をした怪物は肩越しに振り返ると、僕にそう告げた。僕は今まで見えるだけだった怪物が人間に触れられるという事実を知り、それだけで卒倒しそうになった。
それにしても、と僕は思った。下半身こそ恐ろしい蛇だが、顔だけ見れば意外にチャーミングかもしれない――そんな非常時にそぐわないことを思い浮かべた、その時だった。
――きゃあっ!
ふいに叫び声が上がり、僕の身体を捉えていた蛇の力が突然、緩んだ。僕はそのまま落下し、地面に叩きつけられた。
「獲物を横取りしようったってそうはいかないよ、お嬢さん」
痛みを我慢して顔を上げた僕の目に飛び込んできたのは、スキュラと呼ばれた怪物が長い舌で蛇少女の首を締めあげている姿だった。
「……やめろっ」
僕は自分でもよくわからない衝動に突き動かされ、気がつくと首から下げていたロザリオもどきをむしり取ってスキュラに投げつけていた。
「……ぎゃっ!」
僕の投げたロザリオは幸運にもスキュラの顔面にヒットし、舌から解き放たれた蛇少女は後方に飛び退った。
「……人間か。こざかしい真似を!」
舌を口に収めたスキュラは僕を睨み付けると、下半身から生えている犬と共に襲い掛かってきた。
――だめだ、逃げられない!
牙の先から涎を滴らせた犬の口が、僕の目の前に迫ってきたその時だった。突然、犬の動きが止まったかと思うと、何かに引っ張られるかのように後ずさっていった。
「くっ……邪魔するか、小娘!」
はっとして顔を上げた僕の目に映ったのは、背後から蛇の尻尾で締め上げられてのけぞっているスキュラの姿だった。
「パパが言ってた。狩りの目的は獲物を殺すことじゃないって」
異様な光景にもかかわらず、僕は胸が熱くなるのを覚えた。蛇少女はどうやら僕を助けようとしているようなのだ。
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