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ダークな出会いにときめいて その5
「獲物に情けをかけるなんて、まだまだ子供だね、メイカ!」
メイカ?それが蛇少女の名前なのか。僕がそう思った瞬間、スキュラの腰から下が百八十度向きを変え、背後の蛇に襲い掛かった。
「逃げろメイカっ!」
僕が思わずそう叫んだ、その時だった。
――メイカ、そこにいるのか?
獣が吠えるような声が空気を震わせたかと思うと、スキュラの犬がその場に固まった。
「ここよ、パパ」
蛇少女――メイカがそう叫ぶと、「――もう帰るぞ」という声が周囲の闇を震わせた。
「ちぃっ、王も一緒だったとはな。……お姫様、今日はここまでにしておいてやろう」
スキュラは忌々し気にそう呟くと、闇の中に溶けるように消えていった。気がつくと、呆然としている僕の前にメイカが上半身をゆらゆらさせながら立っていた。
「ありがとう人間。私を助けてくれたのだな?」
メイカはそう言うと、凄みのある笑みで僕を見つめた。
「いや僕はその……無我夢中で」
怪物と言葉を交わしているという異常な状況にもかかわらず、僕はなぜか蛇少女のことを美しいと思っていた。
「本当ならお前の中にある『タリス』を持ち帰るところだが、やめておく。お前が……その、「良い獲物」だからだ」
「良い獲物?」
「……人間の言葉はわからぬ。とにかくお前を殺したくない」
「ああ、つまり僕を気に入ってくれたのか。そいつはありがたいな」
「気に入った?……気に入った、か。ああそうだ、気に入った」
蛇少女は気に入った、という言葉を繰り返した後、再び僕の顔を見据えた。
「私の名はメイカ。父は冥王の一人テュポ―ン、母はラミア。……お前は夜が明けたら我々を見たことを忘れるだろう。この人間界には時々、我々の仲間が「狩り」にやってくる。スキュラのような奴には気をつけろ」
メイカは一息に言い放つと、スキュラと同じように闇の中に消えていった。
僕は気配の消えた空地に呆然とたたずみ、メイカ、メイカと口の中で何度も繰り返した。
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