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みーちゃんは両親と3人家族でした。 お母さんとお父さんはとても優しく、1度もみーちゃんを怒鳴ったり殴ったりしませんでした。みーちゃんが辛い目に合わないか、いつも心配していました。 きっと、心配しすぎたのでしょう。 みーちゃんの身にトラブルが起こるたびに、両親は殺人を犯しました。 みーちゃんが覚えている1番古い殺人は幼稚園の時。 同じクラスの女の子が、みーちゃんのお気に入りの靴下をどこかに捨ててしまいました。その理由は未だに分かりません。女の子は何故か朝から機嫌が悪く、いきなりみーちゃんの靴下を奪い、からかいながら逃げたのです。 女の子の母親は何度も頭を下げて謝りました。〝靴下を弁償させてください〟とも言いました。 みーちゃんのお母さんはこう返しました。 〝まぁ子供のケンカですし、弁償なんてかまいませんよ。それにうちの子も悪いので〟 と。 ーーーーあれ? みーちゃんはポカンとしました。 あれ? わたしが悪いの? ケンカ? そんなのしてないよ? わたしは何にもしていないよ。 なのにどうして? なんで?? 不思議に思ったけど、みーちゃんは黙っていました。 お母さんはニコニコ笑っているし、女の子の母親はホッとした顔をしていました。 ピリピリしていた空気もふわりと柔らかくなっていました。 自分がここで何か言ったら、それを壊してしまう。 みーちゃんは子供心にそう感じたのです。 それからもいろんなことがありました。 小学校に入学しても、みーちゃんは内気で頭の回転が遅く、イジメのターゲットになりやすい子供のままでした。何度か学級会で問題になり、いじめっ子の保護者たちが謝罪に来たことがあります。 〝わざわざ家まで来て謝ってくれたんだから、水に流しても良いわよね?〟 そのたびにお母さんは訊きました。 するとお父さんは、 〝あぁ、そうだな。しかし世の中捨てたもんじゃないな〟 そう答えて頷きました。 確かに救いようはあるのかもしれません。 世の中は決して(あく)ばかりではありませんでした。いじめっ子の保護者のうち、9割もの人たちがきちんと反省してくれたのですから。 残りの1割については、よく解りません。 お母さんとお父さんは、そこについては何も言いませんでしたから。まるでその存在が最初から無かったかのように。 こんな風に、お母さんとお父さんはいつも優しかったけど、ときどきは怖いこともありました。 お母さんは、お父さんの妹……、つまりみーちゃんの叔母が苦手でした。 叔母は思ったことを全部口に出す人で、良く言えば裏表の無い人、悪く言えば率直な言葉で他人を傷つける人でした。 叔母は、みーちゃんの家によく来ました。そしてお母さんと話していました。叔母に何を言われても、お母さんは反論しませんでした。上から目線、お説教、お節介、小言、失言、暴言。世間話に混じるその全部を受け流し、ただ微笑んでいました。 叔母が帰った後、お母さんは必ず寝室に向かい、クローゼットに閉じこもります。 誰にも見えない場所で、お母さんは自分の髪の毛を引っぱったり、腕や足を掻き(むし)っているのだと、みーちゃんは小学3年生くらいで気がつきました。 お父さんは働き者でした。 仕事は営業で、朝は早く、帰りは遅く。休みもバラバラでした。 お父さんは外ではいつも笑っているけど、家の中では無口で、毎日お酒をたくさん飲んでいました。 お酒は身体に悪いけど、みーちゃんは止められませんでした。 段々と、みーちゃんはこう理解していきました。 どんなにイヤな目にあっても、腹が立っても、たとえ相手が悪くても、悲しくても、憎らしくても。 怒りは決して外に出してはいけない。 外ではなく、自分の内側で爆発させれば良いのだと。 〝自分〟を殺せばいいのだと。 そうすればトラブルは大きくならない。 ケンカにもならない。 逆恨みもされない。 実際に、みーちゃんの家は基本的に平穏でした。 お父さんとお母さんは、いじめっ子たちを全く怒らなかったし、責めませんでした。 だけど、許したからこそ、みーちゃんは〝親にチクったな〟などと恨まれませんでした。 叔母は自分がめちゃくちゃ嫌われていることに気づかずにいられるし、お父さんは仕事場の偉い人に気に入られています。 どんなに言い返したくても、叫びたくても、殴ってやりたくても、殺してやりたくても。 耐えて、耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて耐えて。 お母さんは自分の爪で、お父さんはお酒で。 ずっと自分の心を殺していたんです。 自分という人間を何百回も殺し続けたのです。 全ては平和のために。 ーーこれが正しいんだ みーちゃんはお父さんとお母さんが大好きだったので、そう信じて疑いませんでした。 だからみーちゃんにとって、中学で出会った彼女は衝撃的だったのです。
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