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2年生になった初日。
隣の席にいた彼女が、みーちゃんに話しかけてくれました。偶然にも同じアニメを好きだったので、彼女とはすぐ仲良くなりました。
彼女はみーちゃんとは違い、大きな声でハキハキと話す子でした。叔母みたいに積極的なところがありましたが、彼女はちゃんと言葉を選び、相手を気遣ってくれる人でした。
一緒に過ごしているうちに秋になりました。
ある日、夕焼けが差し込む放課後の廊下を、みーちゃんと彼女は歩いていました。
すると、
〝うわ、オタクきもっ〟
見知らぬ男子のグループが、すれ違いざまにからかってきました。
みーちゃんのカバンに付いていたアニメキャラのキーホルダーに反応したのでしょう。みーちゃんは静かに俯きました。
〝は? お前らの方がきもいわ〟
次の瞬間、思わず耳を疑いました。
声の主は、隣の彼女でした。
〝女子にしか偉そうにできないくせに〟
さらに彼女は続けました。
男子たちは〝え、怒ってるんですけど〟とか〝睨まれてる。こわっ!〟とか笑いながら、去っていきました。
ふんっと鼻をならす彼女に、みーちゃんは尋ねずにはいられませんでした。
ーーどうして言い返したの?
彼女は首を傾げました。
〝え? だってムカついたから〟
ーーも、もしケンカになったら大変だよ。騒ぎが大きくなれば先生とか両親とか出てくるし……
〝その時はその時よ〟
ーーこ、怖くないの?
〝何が?〟
ーーだって仕返しされるかもしれないし……
〝上等よ。そうなったら徹底的に戦ってやるわ〟
ーー戦う……?
〝うん。完全にあっちが悪いんだから、パパもママも私の味方になってくれる。騒ぎを大きくしたら、あいつらが恥をかくだけよ〟
みーちゃんは閉口しました。
彼女の発言は、考え方は、みーちゃんの世界には無いものでした。
みーちゃんの世界では、あらゆることにおいて〝我慢する〟が常識でした。
思春期に入った同級生たちは、すぐにカッとして、大人にやたらと反抗していました。最初は彼らが怖かったのですが、いつしか滑稽に思えてきました。
自分の感情をろくにコントロール出来ず、強がってイキがっているなんて。
恥ずかしくないのだろうか?
彼らが滑稽であればあるほど、〝我慢〟という行為が美しく思えました。
耐えて何も言わず、そっと瞳を閉じる。
中学2年生のみーちゃんには、ひたすら我慢することは〝常識〟を超え、もはや〝美徳〟となっていたのです。
なのに彼女は全然違いました。みーちゃんは、彼女も滑稽に見えました。でも、いつしか怖く感じるようになりました。
友達だと思っていた彼女は、未知でした。
まるで異世界でした。
彼女とはその後も仲良く遊びましたが、別々の高校へ進学したのを機に、疎遠になりました。
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