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春になると、みーちゃんは近くのスーパーのレジでバイトを始めました。相変わらず他人は怖かったけど、お父さんとお母さんに心配をかけたくなかったのです。 だけどこれが意外にも合っていました。 みーちゃんは、お客さんに嫌な態度をとられてもニコニコしています。たとえ自分が悪くない時でも謝ります。 クレームは1件も起こらず、上に逆らわず、勤務態度は真面目。 何と2年後には正社員にしてもらえました。給料はたいして上がらず、拘束時間と責任が増えましたが、それでもみーちゃんは幸せでした。 〝頑張りが認められる〟喜びを知ったのです。 お父さんの扶養から抜け、自分だけの厚生年金の保険証をもらった日は、胸が1日中ぽかぽかしていました。 同じ頃、初めて彼氏ができました。 10コ年上の男で、スーパーの常連でした。男は必ずみーちゃんのレジに並び、挨拶や天気の話をしました。 やがてご飯に誘われ、何となくついて行って、そのまま流れで付き合うようになりました。 男は大手に勤めるエリートで、いつも堂々としていました。そしてよく喋る人で、みーちゃんにいろんなことを話しました。 特に多かった話は、〝みーちゃんがいかに愚かな女であるか〟というものでした。 君さぁ、せっかく進学校に受かったのに、どうして大学に行かなかったの? 考えてみてよ。君の給料は僕の3分の1しかないよね? 客にペコペコして、土日祝も休まないで、たったそれだけしか稼げないって恥ずかしくない? 虚しくないの? 生きていて楽しいの? 君は親不孝者だね。 君の親は、まさか自分の子供がこんな負け犬に育つとは思わなかっただろうね。 せめて女に産んでもらって感謝した方がいいよ。 女っていいよね。 ゆくゆくは、男に食わせてもらえるんだから。 壊れたレコードみたいに男はそう繰り返しました。 みーちゃんは男のマンションに呼ばれると、必ず家事をさせられます。どんなにがんばっても、やり方が悪いと怒られます。親の育て方が悪いと怒鳴られます。男は酒に酔っていると物を投げたり、壊したりしました。 付き合ってから約半年経った日。 ついに男は、みーちゃんに暴力を振るいました。 仕事でムシャクシャしていたらしく、みーちゃんの些細なミスに激怒し、お腹を殴ったのです。 そこはズキズキと痛み、青いアザが出来ました。
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