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どのくらい、そうしていただろうか。
落ち着いた未来は、青島の腕の中にいる状況が飲み込めず、体をこわばらせて青島に声をかけた。
「社長…。」
あぁ、と返事をした青島もまた、少なからず動揺していたが、未来の頭にぽんぽんと優しく触れて、体を離した。
「コーヒー冷めちゃいましたね。入れ直しますか。」
努めて明るく言う未来に、椅子に座った青島は優しい声で、いい、と返事をすると、そのぬるくなったコーヒーを飲んだ。
未来は、唇を噛み、こわばった表情のまま、青島の前に座った。
「私、誰かに怒鳴り散らすなんて、初めてです。」
「そうか。」
と言った青島の顔が、なぜか嬉しそうで、未来は
口をへの字に曲げた。
「子どもだと思ってますよね。」
拗ねたように言う未来に、青島は首を振った。
「いや、子どもじみているのは俺の方だ。悪かった。」
やけに素直に謝る青島に、未来の荒ぶっていた気持ちは、スッと静まるようだった。
「彼は、上に住んでいるのか?」
一方、青島は、未来の剣幕に圧倒されながらも、そこは聞き捨てならず、今一度、確かめるように聞いた。
「はい。実はここ地元の後輩が家主なんです。近くの物件を見に来た時に、偶然会って、貸してもらうことにしたんです。」
「後輩が上に住んでいて、大学の事務をしている縁で、留学生の王くんに部屋を貸してるみたいです。」
「だから昨日は一緒に帰ってきたという訳か。」
「はい。道田さんとの仲を取り持っているのに、若い男の子とどうにかなってると思って、怒ってたんですか?」
正直なところ、創太のことは、全く頭になかった。
ここに来るまでは確かに気になっていたが、王の姿を見た途端、それはどこかに行ってしまっていた。
「まあ、そんなとこだ。あれだしな。」
恐らく、王の容姿ことを指しているのだろうと思い、未来は頷いた。
「確かに、とってもかっこいいですけど、かわいいというか何というか、お友達です。」
さっきまで目の前にいた王のことを思うと、微笑ましい気持ちになり、知らず知らずのうちに顔がほころんでしまう。
青島には、その未来の表情と、先程の王の言葉が引っかかった。
「送ってもらっただけなのか?」
「そうですよ。同じとこに住んでいるんですから、送ってもらったって言うよりは、一緒に帰って来たって言うのが正解です。」
「泣いたのか?」
青島が、やけに気にしているの様子なのが意外だったが、隠す必要もない。
「王くんは言葉がどうしてもストレートになっちゃうから、心にくるんですよね。泣き顔は見られたくなくて、俯いていましたけど。」
「でも何とか励まそうとしてくれて。でも私は早くひとりになりたかったから、昨日は素っ気なく別れちゃったんです。」
泣き顔を見せまいとする姿に、王が何かしらの感情を抱いたのだろうか、それとも以前からなのか、と青島は考えていた。
そうでなければ、わざわざ次の日に顔を見にくるなどしないはずだ。
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