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「道田とは、話せたのか?」
「はい。でも分かってもらえませんでした。他に好きな男が出来たと言われた方が、諦めがつくって言ってました。」
「嫌いになった訳ではないけど、私のために彼が変わることを望んでいないなんて理由は、ダメなんでしょうか。」
「嫌いではないが、好きでもないってことだろう?お前の気持ちが、もう変わってしまっているんだよ。」
「恋愛は綺麗事じゃない。気持ちが大きくなればなるほど、相手に対する欲も大きくなる。それを望まないのは、もう背負いきれないからだ。」
未来の目から、また涙がこぼれていた。
「なんだお前。よく泣くな。」
未来は涙を拭いながら、青島を見返した。
「社長が泣かせてるんですよ。創太の前でだって泣かなかったのに。」
「ダメですね、私。綺麗事ばっかり言ってても相手には伝わらない。傷付けないようにって思っていたけど、もう充分傷付けているんですよね。」
青島は黙って聞いていた。
「社長はどうして離婚したんですか?」
未来の突然の問いに、青島は一瞬、驚いた表情を見せたが、直ぐに真剣な面持ちになって答えた。
「あの頃は今より仕事はハードで、残業問わず働いていた。会社を立ち上げたら立ち上げたで、彼女を顧みる余裕などなかった。気持ちが離れてしまうのは当然だよ。1人の方が楽だって言われて、それでお終いだ。」
「社長は好きだったんですか?」
青島は、ふっと笑って答えた。
「愛していたよ。でも思うだけではダメな時もある。伝える努力をしなかった。」
未来は真っ直ぐに答えてくれた青島の、新たな一面を垣間見たようだった。
「やっぱり社長は、素敵です。」
不意にそう言われた青島は、頬が緩むのを感じて、慌てて口元を手で覆った。
「どうしたんですか?社長。赤くなってますよ。こんなこと、言われ慣れているんじゃないんですか?」
未来はころころと笑いながら言った。
「そんなことない。俺の話は終わりだ。」
いつも颯爽としている青島が照れている姿など、見たことがなかった。
未来の中の暗い気持ちは、自然と和らいでいた。
遠くに、17時を告げる、物悲しげな音楽が聞こえてきた。
「そろそろ行くか。」
青島がそう言って、立ち上がった。
「一緒に出ます。買い物に行かなきゃ。冷蔵庫空っぽなんです。」
「料理なんてするのか?」
「簡単なものなら出来ますよ。」
男と住んでいたんだしな。
青島は、声には出さずに思った。
「買い物、付き合ってやろうか。車があると楽だろう。」
青島の申し出に、未来は手を振って答えた。
「えっ⁉︎悪いです、そんな。」
「構わん。どうせ帰るだけだ。ほら。」
青島特有の有無を言わせないその雰囲気は、しかし未来は嫌いではなかった。
「じゃあ、お言葉に甘えます。少し待ってて下さい。」
未来はコーヒーカップを手に取ると、部屋に戻り、財布と携帯だけを小さなバッグに入れて、外に出た。
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