99%の私たち

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結婚資金を少しでも増やすべく毎月の貯蓄額を上げたのでお小遣いが激減したのだ。加えて、毎週末に故郷へ結婚式場見学へ行くとなると交通費だけで月々数万円が飛ぶ。 「飲酒盃(いさはい)が貯金ゼロでプロポーズしたせいだろ?まったく、本当こいつは武田に甘えっぱなしだな」 「まーな。すげーだろ、俺」 いっちゃんは悪びれず、両手でピースサインを作った。威張るな。 会計を済ませて居酒屋を出るとネオンに照らされた歓楽街は飲み会帰りの会社員や学生で溢れんばかりだった。上京して3年が経つが、いまだに東京の夏には慣れることができない。人混みと、むっとするほどの熱気と湿気に当てられそうだ。 上杉はふらつくいっちゃんを半ば抱えるように歩き、私も背後から婚約者の身体を支えた。 元ゴールキーパーの上杉は長身で手足が長い。相手選手との駆け引きが上手く、最後尾からチームを鼓舞し、機を見てベストなプレーを選択できる我が部の守護神だった。 逆にいっちゃんは小柄だ。テクニックや頭脳プレーは他の選手に劣るものの、ストライカーとしての嗅覚はピカイチで、最前線で仲間を引っ張り、スピードと強靭なメンタルと勢いだけでゴールを決める強引なタイプの点取屋だった。 高校3年で全国高校サッカー選手権に出場した時は、上杉が悔しがった失点をいっちゃんの複数ゴールで取り返し逆転勝ちしたこともあったし、いっちゃんが強豪校からやっとのことでもぎ取った貴重な1点を上杉の好セーブで死守した試合もあった。
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