99%の私たち

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道行く人々を見渡し、いっちゃんは泣きそうな顔で言う。 「俺は武田で良かった」 そうつぶやき、いっちゃんは上杉の首に抱きついた。甘え上戸の抱きつき魔は上杉の胸元に顔を埋め、やがて立ったまま眠り出した。 「大丈夫、想定内」 上杉はごく冷静にいっちゃんの腕を解き、小柄な彼を軽々と背負った。背後にいた女子会帰りのグループが黄色い声を小さく上げて、キラキラした目で上杉を見つめる。うんうん、分かる。 「さすがキャプテン、いつもごめんね」 私はいっちゃんの鞄を持ち、婚約者に代わって詫びた。信号が青に変わり、人々が一斉に横断歩道を渡り始めた。 「こいつって馬鹿だけど、いい奴だよな」 交差点の真ん中で、上杉は独り言みたいに小さな声で言った。その口調には幼なじみへの愛が溢れていて、私は深く首肯した。私の婚約者はいい奴だ。うちの家族や女友達からも評判がいい。生きとし生けるすべての人間たちの悲恋に同情してしまう男だ。 私は上杉の隣を歩きながら、いっちゃんが尊敬していると言った99%の人々を見回した。 千鳥足のサラリーマンも、客引きのヤンキーも、着飾ったホストも、ホストに微笑む女子大生も、巡回中の警察官も、みんな、胸に秘めているのかもしれない。打ち明けられなかった恋心や、砕け散った一途な愛や、忘れられない誰かへの未練を。そう思うと名前も知らない赤の他人たちが無性に愛しく思え、まるで戦友のようにも思えた。
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