99%の私たち

7/10
前へ
/10ページ
次へ
「上杉は?いる?忘れられない人。あ、私には教えてくれないんだっけ?」 横断歩道を渡り切り、私は嫌味っぽく上杉を睨んだ。彼は困ったように眉を下げ、小さく笑った。 「俺、恋バナ苦手」 上杉の表情はどこか切なげで、私は一瞬ぞくりとした。 「それに武田にだけは絶対に言えない」 固い決意を口にして、上杉はこの上なく慈悲深い微笑みを浮かべた。その笑顔に心を絡め取られそうになり、私は慌てて己を律した。 「幸せになれよな」 いっちゃんを背負ったまま、上杉は長い腕を伸ばし、私のショートヘアをぐしゃぐしゃに撫で回す。彼にしてはいつになく乱暴な仕草で、私はそれに意味を見出そうと上杉の顔を凝視した。髪とともにかき乱された私の心ではわずかに期待が膨らんでいたが、彼の目はきっぱりと私を拒んでいた。 JRの改札口で上杉はいっちゃんを背中から降ろした。婚約者は目を覚まし、自分の足で自動改札を通り、都営地下鉄の改札へ向かう上杉にひらひらと手を振った。上杉はこちらを振り返り、心配そうな目でクスッと笑ったが、その顔はすぐに人混みに紛れて見えなくなった。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

18人が本棚に入れています
本棚に追加