青錦

はじめから間違っていたのだ

死んだのだ。
確かに、あの時、俺は。

「常日頃からの乱暴狼藉、そして水戸、長州などの勤王攘夷派(きんのうじょういは)との内通疑惑」

それで構わねェと思った。
心のどこかでいつかこうなるとも思っていた。
悪ぃのは上手いことやれなかった俺だ。

それでも。

「この事、芹沢局長は」
「承知済みです。勿論近藤局長も」
「……そうか」
「これはお二方からの情けです。腹を詰めてください、新見局長」

己で斬らぬならば問答無用で首を落とす、との意思表示のようにまわりに連なった新撰組隊士達がつらつらと刀を抜いて、その切っ先をこちらへと向ける。

仮にも仲間を斬ろうというのに、どの顔に浮かぶのも惜別や悲哀ではなく明らかな侮蔑で、俺は一人嘲るように笑った。

「随分、嫌われたもんだ」

つーか、知らねぇよ、近藤なんざ。
俺は芹沢さんが斬れと言うなら腹でもお前らでもいくらでも斬ってやるさ。

「何か言い残すことはありますか」
「ねぇ。だが介錯し損じたら許さねぇぞ、下手くそ」
「はは、誰に向かって言ってるんですか」
「そうだったな、お前は新撰組が誇る稀代の天才剣士だ」
「嫌味くさいですね、もういいでしょう。さっさと終わらせましょう」
「ああ、そうだな」

「世話になったな、沖田。地獄で先に待ってる」

これは、呪詛だ。
俺もお前も所詮同じ穴の狢で、たまたま今回は俺の方が先に天命尽きただけで行き着く場所は皆同じだ。

俺達人殺しはどう足掻いたって録な死に方出来やしねぇ。

「っ、」

懐紙を巻き付けた短刀を腹に添えて、なんの躊躇いもなく華々しく真一文字に横に引く。

息の詰まるような激しい痛みは一瞬で、ポトリと椿が落ちるように呆気なく首を落とされた俺の意識は途絶えた。

「お疲れ様です、新見さん。見事な切腹でした。一人じゃ寂しいでしょうからすぐに芹沢さんもそちらに送ってさしあげますからね」