ふーん、おもしれぇ女

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せっかく誉めているというのにこんなに嫌そうで困った顔をする人も珍しいなと、そらされた瞳をわざと少し追いかけて覗き込む。 しっかり剣を交えたわけじゃないから確かではないけれども、我流というより永倉さんの神道無念流の動きに少し似ていたような。 それに山崎さんや土方さんほどわかりやすい容姿の良さではないけれども、切れ長で男らしい涼しげな目元はもう少し身なりに気を使えばきっとおなごも放っておかないだろうに、と余計なことを思う。 だが、それよりも。 「ねぇ、伊織さん。昔どこかでお会いしたことありませんでしたか?」 「新手のナンパですか」 「なんぱ?」 「いや、なんでも。俺は沖田隊長にお会いしたことなんてねぇと思うんで気のせいだとおもいます」 フッと悪戯っぽく彼は笑った。 その横顔すら見覚えがある気がするのに記憶にもやがかかったように思い出せない。 えっと、誰だ。 誰に似てるんだっけ? 僕はたぶんその人のことをよく知ってる気がするのに。 「あー、わかるわぁ。よぉある顔ですもんね伊織の顔。俺も初めて会った時鈴木さんとこの太郎くんかと思た」 「誰やそれ」 「俺ん家の隣に住んでた爺さん」 「殺すぞ山崎」 「の犬」 「死にてぇのか山崎」 「ついでに犬種は土佐犬や」 「それ以上喋ったら本気で息の根止めるからな山崎」 けらけら笑いながら逃げる山崎を今度は僕じゃなく伊織が木刀を持って追いかける。 彼が僕の前を横切った瞬間また何故かふわりと言い知れぬ違和感を感じた気がしたけれども僕はまさかね、とそれを見てみぬふりをした。 似ているのだ。 いや、むしろまるで本人のようだ。 えっと、だから誰に? 「あぁ、確かに。言われてみれば伊織さんは昔武州にいた頃に拾った道端で死にかけていた猫に似てます。名を確かタマと名付けました」 「隊長と言えど許さねぇからなおい」 「タマお手。本当に僕のこと忘れてしまったんですか」 「猫はお手しねぇし俺はタマじゃねぇし」 「酷いなぁ命を助けた恩を仇で返すなんて地獄におちますよ」 「地獄に落ちるのはお前だよ腐れ外道」 『世話になったな、沖田。地獄で先に待ってる』 うーん。 まさか、ね。
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