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源頼光-RE;birth- 序 その3
翌日。私は学校の待合室に満仲さんと一緒にいた。
テーブルを挟んで目の前に学校の校長先生がいて、転校手続きを行っている。
今日から転校生として私の学校生活が幕を開ける。本当なら両親が共にいるはずなのだが、あくまでも一連の妖怪事件を調査、解決するための学校生活なので、そこまで気にする必要は無い。
私がこれから通う学校、皇星中学・高等学校は百年以上の歴史を持つ中高一貫学校で、一応、市内では名門高校として名が知れている進学校にして神学校だ。キリスト教の教えに根ざした一人ひとりの独自性を尊重とする校風、勉強においても中学は中学受験無しでは入れず、高校でも偏差値は高めで、なかなか…いや、中途半端な頭では入れないレベルの高さ。そんなせいか、毎年東大合格者が最低一人はいる名門学校だ。
両親からはどうせ入るなら名門を、というありがたい心遣いの為に一時しのぎなのにも関わらず、中途入学の為に必死に勉強して、何とか合格、入学可となった。
勉強辛かったなぁ…
「これで手続きは終了です。それでは、朝のホームルームから早速、参加してください」
「ありがとうございます」
「しかし…綱ちゃん、本当によく似合ってるな~」
校長先生がまだいるというのに、黒のブレザーに中学三年生のしるしとなる赤いリボンをつけた私を見て言う。
「ありがとうございます」
いよいよ中学生活が始まるのだが、昨日の今日でかあまり落ち着かない。
何も起きない、起きるはずは無いのだろうが、妙に安心できない。
その時、「失礼します」と、こんこんとノックが鳴り、続いて二人の人物が入室した。
一人は四十代前後の普通のおばさんだ。問題はもう一人で、ハーフアップしたロングヘアの女の子。そう、その女の子こそが…
「――っ、貴女は!」
そう、昨日妖怪に襲われていた少女だった。向こうもそれに気づいたようで、びくっと身体を震わせた。
「どうしたんですか?」
「いえ」
校長先生の問いにおばさんが答え、「どうしたの。ほら」、と校長先生の隣に座るように促され、おずおずと座る。
「え…と、彼女は?」
「ああ、もう一人の転校生だよ。君の二つ下の後輩になる女の子だ」
思わず質問した私に校長先生は答える。「では早速ですが――」
転校手続きの会話に入り始めた二人を尻目に、斜め向かいに座る後輩になるであろう少女はうつむいたままこちらを見たり、うつむいたりを繰り返している。
私達は小声で会話する。
「綱ちゃん、あれって…」
「ええ、昨日、妖怪に襲われていた女の子です」
「結構、頭良いんだね」
「ふざけないでください!とにかく、なんで彼女がここにいるんですか?」
「俺に聞かれても困るよ」
「…そうですよね……昨日の今日で何で襲われていたんでしょうね」
妖怪は余程強い未練や恨みが無い限りは個人を襲わない。彼らは個人よりも条件を満たした相手を無差別に襲う。もし、二度、三度と襲われるということは狙われる人物に問題がある場合しかない。
「たまたまだったのか、はたまた彼女自身に問題があるのか…」
「気になるね」
「ご苦労様です。これで手続きは終了となります」手続きを終えた校長先生が書類を手に立ち上がる。「それではお二人方、楽しい学園生活をお送りください」
校長先生の退出後、私達は立ち上がり、それぞれの教室に向かおうとして――
「あの!」
昨日の女の子から呼び止められた。
「何でしょう?」
私は答えた。
「…昨日は助けてくれてありがと・・・」
「いえ、お構いなく」
「あの…妖怪と戦ってた、よね…」
「はい」
「あの…私達を――」
――ガシャン!!
少女の言葉は背後の窓ガラスが大音量で破壊される音でかき消された。
「「「!?」」」
窓ガラスを破壊し、部屋に侵入したそいつは――昨日の、角の生えた猫の化け物、化け猫の亜種だ。
ふやぁぁぁおん!!
猫は並べられた机の上に飛び乗るように侵入すると、一気に少女目掛けて襲い掛かった。それをそうはさせまいと、満仲さんが飛び出し、彼女と猫の合間に滑り込み、楯になろうとした。
猫の爪による斬撃が満仲さんの肩に当たり、彼を叩き落とすような形になる。
ぐるぐるるる!!
「あぁ…」
「ぐ…」
すっかり思考が奪われ、パニック状態になった少女に私は叫ぶ。
「逃げて!」
「――っ!」
我に返った少女は急ぎ待合室を飛び出した。それを追うように猫が、続いて私が飛び出す。
無作為に走り続ける少女を巨大な猫が廊下一杯に走り、追いかけるものだから、走るたびに壁がこすれ、ところどころを破壊される。それを必死になって追いかけるが、なかなか追いつかない、否、猫を追い抜くことが難しい。
走り続ける際にジリリリっと警報音が鳴り響いた。全校に異常事態が発生したことが知れ渡ったのだ。
「きゃっ!」
やがて、少女が階段の踊り場で大きく転んだのを機に追跡劇に幕が下りた。何とか立ち上がろうとするも腰が抜けたのか、なかなか立ち上がることができないようだ。
「ああ、ああ…」
ぐるるる…
喉を鳴らし近づく猫。
「あ、あ…」
ふやぁおん!!
猫が少女を襲おうと手を上げ、一気に振り下ろした。が、それを私は見逃さない。
スライディングをするかのように低姿勢で猫と少女の合間を走り抜けると、少女を抱きしめ、背中を楯にした。
抱きしめた際に距離ができたのか、猫の爪の攻撃は浅く、私の背中を引っ搔くように通り過ぎ、浅い傷に止めた。新しい制服が早速おじゃんになってしまう。
猫の斬撃は今度こそはと、深い攻撃をしかけてきた。絶体絶命。今度こそはと覚悟を決め、背中を楯に少女を思い切り抱きしめた。そして遂に猫が爪を覆いかぶさろうとして――
――ガキン、という金属音によって遮られた。
「え…」
思わず呟いた。続けざまに私達の前に立ち塞がったその人は
「そこまでだ、妖怪!」
と、言い放った。
そう、彼との出会いはこうして幕を開けた。
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