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源頼光-RE;birth- 序 その1
安永31年
夕暮れ時だった。沈み始めた太陽の光を背に、私の横をすり抜け、遠ざかり始めていた子供の目の前にその"人物”は現れた。
身長は百七十前後。ロングコートに口元を完全に隠すほどのマスクをした長髪の女性が小学生――少女に向かって口を開いた。
「ねぇ、ワタシ、綺麗?」
少女は首をかしげる。
「ねぇ、ワタシ、綺麗?」
「あの…えーっと…」
「綺麗?」
「あー…うん、多分」
「これでも~?」
女がマスクを開くと同時に私の足は駆け出していた。相手のマスクの下の口は耳元まで大きく裂け、剥き出しになった口腔が大きく息を吐いた。
少女が悲鳴を上げる。
女はどこから出したのか、巨大なハサミを手に少女に覆いかぶさろうとして――
――ガキン、という金属音によって遮られた。
私は言う。
「そこまでよ、妖怪!」
ハサミをぶつけた刀に力を加えて無理矢理押しのけると同時に、すぐに体勢を整え懐に飛び込んだ。一気に片をつける。
相手はハサミで反射的にそれを防いだ。再度、ガキンという金属音が響く。しかし、ここで手を緩める訳には行かない。今度は相手の篭手目掛けて刃を滑らせた。今度はハサミを握ってい手首にぶつかり、見事に砕かれ、ハサミが落ちる。
「はぁ!!!」
トドメを刺そうと懐に飛び込もうとしたが、女――口裂け女はすうっと煙のようにハサミごと消えてしまった。思わずたたらを踏んでしまう。くそ、逃げられた。
私は刀を鞘に収めると、少女に向き直った。
「大丈夫ですか?」
私の質問に少女は「う、うん」と答えた。
「最近よく妖怪が出るみたいですから、あまり遅くまで遊んでちゃ駄目ですよ」
「は、はーい」
少女は答えると走り去っていく。
遠ざかっていくそれを見送って――
「――なんで何もしないんですか?」
と、傍らにいた男性に思わず釘をさした。
「いや、俺の出る幕じゃないと思ってさ」
正確には反射的に動けなかった、が正しいのだろう。まぁ、確かにあれに反応できる人は少ないかもしれない。
へらへら笑うこの男性は源満仲。私の上司に当たる方だ。身長は百八十前後、細マッチョにスーツ、若い頃はさぞモテてだろうそこそこ端正な顔立ちの現、四十代。手には一応、私達の"武器”が握られている。
武器――そう、妖刀が。
「しかし、住宅街はやはり危険だね。いつ、またあんなのが出るかわかったもんじゃない」
確かにそうだ。最近、この街は物騒すぎる。駅前とかならいざ知らず、要りこんだ場所で今みたいなのが現れ、人々を襲うと考えるとどう対処をしたものか。
「そうですね。でも……それを何とかするのが私達の任務です」
ここで自己紹介。私の名は渡辺綱。満仲さんと共に様々な怪異、妖怪と戦ってきた現役の女子中学生。それが私。
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