源頼光-RE;birth- 第一部 new新「多田五代記」その1

1/1
63人が本棚に入れています
本棚に追加
/183ページ

源頼光-RE;birth- 第一部 new新「多田五代記」その1

源頼光  平安時代に実在した武将にして摂津源氏の祖。父、源満仲と同じく、藤原摂関家に臣従し、官職を経て帝の警護となり、藤原道長に仕えた。道長の権勢が増していくに従い、「朝家の守護」と呼ばれるまでに出世。一生遊んで暮らせるほどの大金持ちになったという貴族よりの武将である。  一方で酒呑童子、土蜘蛛など、様々な妖怪変化を退治した、日本史きってのゴーストハンターであり、その活躍は能や歌舞伎の題材に選ばれ、庶民にも広まるほどの知名度を誇った。 *  少年は夢を見ていた。  いや、夢を見ているという自覚があった。すぐ横に庭園が見える和室で、布団に横たわるその人物を見ていた彼は、その人物に直感的に"この人物は自分だ”という認識があった。  布団の中のその人物は若い頃はさぞ美丈夫であったろう老人だ。七十だろうか、完全に年老い、今、死んでもおかしくない風貌だった。はしゅー、はしゅーとか細い息遣いが耳に聞こえてきた。  傍らにはこれまた若い頃はさぞ美丈夫であっただろう、長い髪の老人。もう片方はざんばら頭に髭を蓄えた、筋骨隆々の老人が鎮座し、布団の中の老人を見守っていた。  やがて老人が口を開く。  「源吾、怪童。俺はもう駄目だ」  それに驚いた二人は焦るように巻くしたえた。  「何をおっしゃいます、主様」  「そうです。まだまだこれからではありませぬか」  その言葉に布団の中の老人はふと、庭園を見ていった。「先ほど御仏の声が聞こえた。もう勤めは果たした、と」  「そんな…」  長髪の老人が歯を食いしばった。  「俺が死ぬのを泣いてくれるか、源五よ…」  「何をおおせられるか。主のために尽くし、主の為に身をこやしてこそ武士の勤めでありまする」  布団の中の老人は深く息を吐いた。  「決して自殺など殉死などしてはならぬぞ。これからは頼国、頼家等に仕えて、民を愛し、家を治むるのが、大きな忠義である」  「主様…」筋骨隆々の老人が嗚咽した。  「今から五年十年生きたとしても、何の楽しみもありませぬ。一生の問うけた御恩徳は、いつの時に、お返しすることができましょうか。是非、あの世までお供がしたい」  と長髪の老人が言うと。  「いや、源吾よく聞けよ。生者必衰会者定理はこれ穢土のならい、黄泉の旅に、伴い行くことはできぬ。自業自得は皆同じでないからこそじゃ」  「源吾よ…」と一呼吸置いてから老人は言う。  「先ほど御仏の声が聞こえたと言うたな」  「はい」  「御仏によらば後世にて再び会えると…」  「え…」  「ああ…」布団の中の老人は答えた。  「何年か、はたまた何百年か後に我らは再び会い、まみえるそうぞ…それ故に未来への昇沈は最後の一念にあるという。故に我が心を破るようなことを言うでない…」  「主様…」  二人は泣き始めた。  「源吾よ、怪童よ、もしも後の世にて会い、まみえるならば、どうか俺を守り、支えてくれ。これ、今生の頼みぞ…頼んだぞ…」  「頼んだ…」言い切らないうちに老人は息を引き取った。まるで眠るように、静かに。  「主様!主様!」長髪の老人が、筋骨隆々の老人が主にすがった。涙が止まらない。ただただ泣きじゃくった。  同時にゆっくりと景色がフェードアアウトしていく。本来ならそんなに広くないはずなのに、景色がどんどん遠くなり、やがて点になっていく。  ああ、自分はこうして死んだんだな、これが俺の前世だったんだな、と、心が伝わってくる。    「もしもーし」  フェードアウトし終えた闇の中で声が聞こえてきた。  若い少女の声だ。それを少年は「うるさいな」と反射的に答えた。「もしもーし」  再度の声。そして――  「――とっとと起きんかい、ボケ兄貴ぃー!!」  と、少年の身体に踵落としが喰らわされた。  「ぐふっ!」痛みと共に少年は噴出す。痛みが寝起きの合図となる。  「って、め…頼親ぁー!!」  「ふん、やっと起きたか」  痛みの原因となる女の子はロングヘアに緑色のブレザーの上からエプロンを着用していた。  源頼親。それが彼女の名前だ。そこそこ可愛い容姿から想像もつかないくらい超暴力的な妹。  「さ、とっとと飯食え!!」  「あーくそ、朝っぱらから嫌な感じ…」  ここでこの作品の主人公と自己紹介をしよう。  主人公の名前は源頼光。今、妹に踵落としを受けたそこそこ端正な顔立ちの少年。  そして私は…そうだな、黒いスーツの男と呼んでいただこう。この作品世界の真の支配者にして"世界そのもの”。それが私だ。 *  「おはよー」  黒に七つの金バッチが特徴的な詰襟制服を着用した頼光がリビングに行くと、トーストを口にしている、同じ制服で同じ学校の中等部に通う弟、源頼信がいた。  「朝っぱらから体調よくないみたいだね」  「ああ…朝っぱらから踵落とし食らわせられたら誰だって気分悪くなるさ…」  「ほら、とっとと飯を食え!私の時間がなくなるでしょうが!!」  「朝っぱらから元気だな…」  朝食にとトーストをオーブンに入れて焼くこと五分、それに目玉焼きもつけて朝食の完成だ。早速、口に入れる。  「しっかし、よく眠ってたね」  「ああ…遅くまでゲームしてたからな…」  「あ、そういえば、兄貴~今日はテストの返還日だったよね~」  意地悪く頼親が聞いてきた。  「ぎくっ…ほら、あれだ、いつも通りさ、多分…」  「いつもどおりねぇ~なら、赤点があるってことだよね」  「そういうお前はどうなんだよ!?」  「私?私はいつも通り中間さ。可もなく不可もなく♪」  「くそぉ~」  「頼信もこんなのになっちゃ駄目だぞ~」  「わかってるよ」  「頼信~!!」  「ま、赤点だけはならないように母ちゃんに手を合わせておきな」  そう言って、頼親は顎でそこへ指した。高級な茶碗やグラスが収められた胸までの高さのキャビネット。その上に亡き母の写真が額縁に収まり、仏壇代わりになっていた。  「おうよ」  朝食を終えた頼光は軽く母の写真に手を合わせると登校した。  何事もなければ、赤点さえなければ、という淡い期待を胸に秘めながら。  しかし、その期待はものの見事に裏切られる。    現代文 四十五点  古文 四十点  英語 七十二点  日本史 八十九点  地学 三十一点  そして――  「源ー」  ああ、聞きたくないし、行きたくないテストの返還だ。先生の所へ行き、答案用紙を眺めて…  数学 四点  言うまでもない。十点満点中ではなく百点満点中の点数だ。あー、終わった。そんな顔をした。 が、  「やべぇ!俺三点だわ!」  「低いな。俺なぞ九点だ」  「勝った…!」  「やべぇ!0点だ!!マジかよ!!すげぇ!!」  「皆ー俺0点取ったぞー!!」  「マジで!?」  「見して見して!」  「やべぇ、ガチだー!!」  「勇者だ、勇者!!」  こんな調子でどんぐりの背比べになるのも彼はすっかり慣れてしまった。   補足するとここは数学の普通クラスだ。普通、と言えば聞こえは良いが、要は「数学ができない」人間の掃き溜めである。人数も十五人と、なんて数の場所に放りこまれたことか…。  当然、そんなクラスに通う人間にまともなヤツはいない、否、少ない。  担任することになった教師も新任教師という悲劇も重なり、クラスは混沌の渦と化していた。  「ちなみに、このクラスの平均点は十五点だ…」  担任の男性教師が頭を抱え込む。  「ぎゃーはははははは!十五点かよ!!」  「平均が十五点ってやベー!!」  「いい加減にしろ!」  教師が声を荒げる。  「お前ら、この状態が平常なわけないんだぞ!河合!」  「はーい」  「聞いたぞ~お前、また英語、百点取ったそうじゃないか」  「英語百点!?」  「すごいぜ!!」  「いやぁ~それほどでも~」  「なら、どうして数学でも百点取れないんだ!?」  「いやぁ~数学と英語って違うっしょ。わかんないものはわかんないし」  「阿部!!」  「ほーい」  「なんで解答用紙が白紙なんだよ!恐ろしい点数になっちまったじゃねぇか!!」  「とってみたかったんですよ…0点ってヤツを…!」  「うっせ、バーカ!!」  教師は息を大きく吸った。  「いいか、お前ら、二年後には大学受験が待ってるんだぞ?こんな調子でどうするんだ!??」  「大丈夫っすよ、先生。俺らは本気出してないだけだから」  「そう」  「「「俺らはまだ本気出してないだけ!!」」」  「俺、本気出したら一日三十時間勉強しちゃうよ?」  「って、一日過ぎてんじゃん!!」  「「「ぎゃーはははははは!!」」」  「笑い事じゃねぇよ…」  教師はすっかり頭を抱えてしまっていた。ご愁傷様、と言うべきなんだろうか…    「源、残念だがお前の入る大学はない」  出来事は前後するが数日前、頼光は担任教師との面談でハッキリとそう告げられた。  「えー、何校かあるっしょ、どうこっちゃーん」  「堂腰先生だ!その呼び名は止めろ!!」  「でもマジな話、本当にないの?」  「ああ」  「困ったなぁ…あ、AOってのがあるじゃん?AO入試で入れば――」  「――源、AOは止めておけ」  「なんで?」  「そもそも面接で通ると思えるのか?」  「ほら…そこはやる気と誠実さで…」  「それにだ。いいか、AOってことは勉学で入学した訳じゃないんだ。入学したのは良いが、確実に勉強についていけなくなる。事実、AOで入った人間がついていけずに高校生の頃からの勉強を大学でする羽目になってしまってる」  「えー、でもなー…」  「悪いことは言わん。ワンランクで良いから上の大学を目指せ、そして真面目に勉強するんだ。今ならまだ間に合う。な?」  「…」  「で…思い切り凹んでこうなった、と」  学生食堂で相手はBセットの定食を、頼光はカレーを頼み、向かい合って食事を取りながら、同級生の大江と話をしていた。  「おう…」  「しかし、どこも全滅は言い過ぎだな。どこか三流大学には入れるとは思うんだがな」  「そう思う。でもなぁ、皇星出て三流しか、ってのはなぁ…」  「まぁ、今までのツケがここで回ってきたんだろうな」  「ツケってなんだよ。ただ勉強ができないだけじゃん」  「はぁ…じゃあ、わかろうとしてきたか?」  「してきたがわからなかった!」  「…なんていうか、やっぱりお前に大学は無理な気がしてきた」  「そういうお前はどうなんだよ」  「俺?俺は推薦まっしぐらよ」  「ブルジョアめ!いい気になるなよ!?」  「妬むな」  「はぁ…しっかし…」   周囲を見て思う。すっかり新しくなった、清潔感あふれる食堂。メニューの多様化。何よりは…  黒いブレザーを着た女子、女子、女子の景色。  「信じられるか?ここ、二年前までは男子校だったんだぜ」  「見事に変わったよな」   「ああ!なんでうちのクラスは男子ばっかなんだ!?」  「そりゃ、男子ばっかりのクラスを引きずってるからだろ」  「ああ、花がない。花が欲しい…」  「無いものねだりだな」
/183ページ

最初のコメントを投稿しよう!