記録 6 それぞれの思惑

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「名前から疑っていたのですか。本名ですよ。黒瀬豊、32歳独身の探偵です」 「ふ~ん……そういう役みてぇ」 「……胡散臭いということですか?」 「様になってるってことだよ。星野良太じゃなくてお前に主役取られたんだったら、もっと納得できるのになぁ」  褒めるついでに愚痴ってしまった。  こんな時に愚痴なんてと反省していると、翔太を抱き締める腕にぎゅっと力が入った。なんだ、急に積極的だななんて思っていると、黒瀬はすぐに離れていった。 「今日はもう、帰ったほうがよさそうです」 「……なんでだよ」 「我慢がきかなくなりそうなので……」  我慢なんてするなよ。喉まで出かかった本音を飲み込む。  純愛ごっこに付き合うと決めたのだ。 「わかったよ。今日のところは帰してやる」  黒瀬は立ち上がってビジネスバッグから名刺を取り出すと、その裏にボールペンでなにやら書き込んでから手渡してきた。並んだ数字は携帯の番号だった。  前向きな行動にほっとする。  玄関まで見送ると、黒瀬は最後に爽やかな笑顔を見せて、「連絡しますね」と言ってドアを閉めた。  翔太の番号は教えていないが、教えなくても知っているのだろう。   (もっと、名残惜しそうにしろよな)  ドアの向こうから気配が消えて、防犯効果が不安な鍵をかける。  いつも通りの一人暮らしの室内へと振り返ったところで、「あっ」と声を上げた。 「あいつ、カメラと盗聴器そのままにしていきやがった!」
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