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「夢みたいです。スタート地点に立てるなんて、思ってもみませんでした。……ですが、翔太さんは……」
「俺がなんだよ」
「翔太さん、言っていたじゃないですか。私にとって、かおりさんはライバルだと。まるで、私とかおりさんを対等に……とはいかないまでも、私にもチャンスがあるような」
「そんなこと言ったっけ」
「驚きましたし、嬉しかったです」
おそらく自分は、深く考えずに口にしたのだろう。
腕の中で黒瀬の体温を感じながら、ぼんやりと考える。
自分を振り回す黒瀬に苛立ったり一喜一憂していた。だが逆に、知らぬ間に自分も黒瀬を、人生を狂わせる程に振り回していた……なんて見方もできなくはないのかもしれない。
なんとなくストーカーの私生活を想像したところで、引っかかりを覚えた。
「なぁ、黒瀬って本名なんだよな……?」
見上げて問うと、ややあって、間近にある黒瀬の顔がほころんだ。
「なんだよ」
「妄想よりもずっとくるものですね。……最中に呼ばれたときは、心臓が止まるかと思いました」
「……変態」
「今のは変態発言に入らないと思うのですが」
低い声で凄んでも、調子を取り戻してきた黒瀬はニヤつくだけだった。
「私が変態になってしまうのは、翔太さんのせいですよ」
酷い責任転換だ。反論する前に、黒瀬が「それにしても」と切り替えた。
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