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乾いた風が石造りの街並みを吹き抜けていく。
煌々と照らす月明かりを頼りに、少年のハサンは崩れた外壁を避けるようにして駆けていた。
盗んできたばかりの食料が、広げたべろべろのシャツの中で小躍りするたびに香ばしい匂いがたった。
「ハサンおかえり! 今日は大量だね」
二階の割れた窓から少女が手を振ってハサンを呼び止めた。八つ年下の妹のセレナだ。今年で七歳になる。
二人は電気も水道もガスも出ない空家に住み着き、寄り添うように侘びしく暮らしていた。
とき折り、反響して鈍くなった銃撃音が遠くから闇夜に乗じて聞こえてくる。AK-47の模倣品の連射音、夜でも朝でもお構いなしだ。
「ただいま」
ハサンが家に入ると、すぐにセレナが甘えるようにくっついてきた。
「これ甘いやつだ!」
セレナは砂糖をのせて焙しただけの麦パンを見つけるや否や、口いっぱいに頬張った。
「うまいか?」
「うむ……」
まともに喋れなくなるほど美味いようだ。
「しばらく家から出るな。特に教会のあった所はダメだ」
銃声の聞こえた感じから、ここから二キロメートルと離れていない場所で殺り合っている。とても近い。
「うむむ……ゴク。前に爆発で吹き飛んだところ?」
「そう、そこには絶対に近づくなよ?」
「わかった。行かないようにする」
「よし良い子だ」
不安にさせまいと頭を撫でてやると、セレナは目を細めてにっこりと微笑み返してくれる。
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