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鳴り止まない銃声を聞いていると、ハサンは三年前の惨劇を思い出す。
打つような雨が降っていた。二人が初めて戦禍に呑まれた日のこと。
市街地が手榴弾の衝撃で揺れる。砂塵が横から吹きつけて、ガラスの破片が上から降ってくる。
四歳のセレナを抱えたハサンを真ん中に、母と父が前後を囲みながら安全区域を目指して走っていた。
「父さん! なんであいつらは一般市民の僕らまで狙ってくるんだ!?」
「ゲリラ戦のせいで、敵と一般人の見境がなくなってるんだ。とにかく走れハサン!」
「走れって言われても、どこに向かって走ればいいのか……」
「これは……。なっ!? 不味い、駄目だハサン!!」
切羽詰まった声に振り返ると、父がハサンを庇うように身を乗り出して被弾する光景が目に飛び込んだ。
「と、父さん……?」
父は悲しげな表情を見せて、その場に崩れた。胸を貫かれていた。言葉の代わりに鮮血を吐きながら、血濡れた指でポケットからコインを取り出した。
父がいつもお守りとして持っていた物だ。考え事をする時には必ずこのコインでトスをしていたのが、ハサンに残っている印象的な父の姿だった。
「……ハサン……ハサン! 行くわよ」
目尻に涙を溜めた母が、凛とした態度でハサンの腕を掴んだ。そのまま引っ張られて、とうとう父の外形は見えなくなった。
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