3人が本棚に入れています
本棚に追加
激戦区になる前にもっと早く逃げていれば……、と後悔が口癖になった母も病に伏して数年前に死んだ。
唯一生き残った家族であるセレナは、ハサンにとってかけがえの無い守るべき存在となっていた。
「まだやってるのか」
朝になっても、教会のあった場所から戦いの音が聞こえてくる。
「ハサンおはよう。今日はどうするの? 外は危ないから……家にいてくれる?」
食料は明日いっぱいまでは保つ。セレナはそれを見越して言っているのだろう。
「ごめんよセレナ。余裕のあるときに他の必需品を集めておきたいんだ」
衣服類に医薬品、機会があれば食料も。あればあるだけ良い。
「……ねぇハサン、あれやって」
コイントスで表裏を必中させる、ハサンの得意技だ。渋る父に頼み込んで教えてもらった思い出深い遊びでもある。
「わかったよ。じゃあ俺がハズしたら今日一日家にいる。ずっとセレナと一緒だ」
「やって! やって!」
セレナのテンションが目に見えて上がった。
「はいよ、お姫様」
ハサンの爪先から勢いよく弾かれたコインは、目まぐるしい速度で回転しながら上昇する。
最初のコメントを投稿しよう!