終わらない戦禍

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 激戦区になる前にもっと早く逃げていれば……、と後悔が口癖になった母も病に伏して数年前に死んだ。  唯一生き残った家族であるセレナは、ハサンにとってかけがえの無い守るべき存在となっていた。 「まだやってるのか」  朝になっても、教会のあった場所から戦いの音が聞こえてくる。 「ハサンおはよう。今日はどうするの? 外は危ないから……家にいてくれる?」  食料は明日いっぱいまでは保つ。セレナはそれを見越して言っているのだろう。 「ごめんよセレナ。余裕のあるときに他の必需品を集めておきたいんだ」   衣服類に医薬品、機会があれば食料も。あればあるだけ良い。 「……ねぇハサン、あれやって」  コイントスで表裏を必中させる、ハサンの得意技だ。渋る父に頼み込んで教えてもらった思い出深い遊びでもある。 「わかったよ。じゃあ俺がハズしたら今日一日家にいる。ずっとセレナと一緒だ」 「やって! やって!」  セレナのテンションが目に見えて上がった。 「はいよ、お姫様」  ハサンの爪先から勢いよく弾かれたコインは、目まぐるしい速度で回転しながら上昇する。
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