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――ハズすことを期待しているのか、当てることを期待しているのか。とにかくセレナはこれを見るのが好きだ。毎回とても喜んでくれる。
――できることなら一緒にいてやりたい。
――独りで待つのは寂しいだろう。怖いだろう。ここもいつまで安全でいられるか分からない。だからといって、他が安全だという保証もない。……運が悪くなければ、ここが戦場になることはないだろう。
――神様どうかお願いします、今日も一日、二人を生き延びらせてください!
コインは放物線を描いて手元に落ちてくる。ハサンは手の甲で受け止める寸前に、もう片方の手でコインを覆い隠した。
「ハサン、どっちなの?」
「悪いなセレナ……表だ」
宣言してから、ゆっくりと手の覆いをはずす。コインは表を向いていた。
「ねぇーハサンー、それどうやって当ててるの?」
「俺にはすこし先の未来が見えるんだって、言ってるだろ?」
「えー? ウソだー、本当はギリギリまで目で追って見てるんでしょ?」
すこし前までは疑うことを知らなかったのに、とハサンは居心地の悪くなった目線を彷徨わせた。
「あー、いや……う、嘘じゃないって。ほら、もう行かないと」
「死なないでね」
悪意も善意もない、純粋なセレナの瞳だった。
「ああ、当然だろ。セレナを残して死んだりしないよ」
頭をかるく撫でてやる。
ハサンは鞘のついたナイフをズボンのポケットに忍ばせて、家を出た。
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