懐かしき歌声が響き渡る

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1914年夏に起きた戦いの始まりに まだ何も知らない兵士達は、のんきに出かけていったという・・ 秋が過ぎて そして冬の季節 轟く砲弾・・そして 僕は怪我をして包帯を巻かれたまま また豪に降り立ち、ライフルを手に握る 敵とにらみあったままで・・膠着状態は続いていた それは冬の灰色の空と同じ 若い私には重く暗い 血と汗の哀しき青春の時間となった 粉雪が舞う・・「今日は聖夜」 目を閉じれば 懐かしき光景が目に浮かぶ 思い出すのは あの懐かしい場所  懐かしき歌声… 雪の粉雪が舞う キラキラと粉雪が日の光を 浴びて、輝いている 木製のスキーの箱やお手製のスキー板 乗った子供らが歓声を上げている 「暖かい飲み物が飲みたいね」 「ショコラかホットミルクとか」 森の中でクリスマスの歌を唄いながら 少女の一人はそれは美しい声で、歌う 「いつ聞いても、素敵よね」 「日曜日の礼拝で、また歌を唄うのよね 去年もクリスマス市場で、チャリテイの聖歌隊でも唄っていたよ… いつも街の人達は足を止めるもの」 後ろの列の子供が 小声でそっと、話をしている 2年前に来てから 彼女は、ずっとここにいるかのように 僕らの輪の中に溶けこんで 親しかった 僕は、歌を唄う少女の横顔を見つめていた キラキラと粉雪が彼女に降りかかり 髪の上に少々、降り積もる 髪飾りのよう そして子供達は僕の家に向かう 「ただいま」 愉しげな歓声をあげる 「お帰り おや、お友達も一緒かい?」 「さあさあ…暖炉の火で暖まりなさいな」 「チキンや生ハムを挟んだパンと クリスマスのレープクへーンがあるよ」 「お手製のレープクーヘン 人型と星型とどっちがいい?」 白いラインの模様入り 黒っぽい大きなクッキーを 暖炉の上の籠から取り出す 他にもツリーに飾られたレープクーへンに 数個の丸い飾りの玉 玉の中には、丸い形の菓子 「あ!可愛い♪暖炉の上には、ジンジャークッキーで 作ったお菓子の家も置いてあるね」 「葡萄ジュースを温めた物だけど…飲むかい?」 「ホットミルクやショコラもあるよ」 「おや、また来たな…」 ニッと悪戯っ子のような笑顔を見せて、老人が子供達に話し掛ける 「お爺さん」 友達の一人が声をかける 「また、パリ万博の話が聞きたいよ」 懐かし気に微笑む  「あれらは 夢のような私の青春の日々じゃったよ」 「さて、チュジニア館の象や踊り子の話か? それとも日本館の話が聞きたいか? サダという美しい日本国の女優も観た」 「道が動く話は本当なの?」 「通りの一角のほんの一部だがね」 「いつもカフェで美味いカフェオレに バタークリームたっぷりの 菓子を食べたよ」 「世界で一番古いカフェにも行ってきた」 「先日、見せると約束した パリの絵葉書だ」 そこには、パリの街の絵が数枚に 女性のモノクロ写真に色塗りしたもの 「変わったドレス?」 「ジャパンの着物だそうだ」 「同じ着物みたいだけど こちらの分は、バレエのダンスの衣装風に アレンジされてるね」 「大きな帽子と素敵なドレス」 「若い頃は、絵の勉強と 村のワインを売る仕事で よく遠い異国のパリを往復したものだがね」 「しばらく住んでいた事もある」 「ほら、これはミュシャのポスター サラ・ベルナールの舞台の分」 祖父はそれは愉しげに ベルエポック 麗しき時代のパリの話をする 「子供たち、ほら、とっておきだよ」 おばさんが笑いかけながら 薪の形に似せた ロールケーキにナイフを入れて切り分ける 夜には焼き立てパンに キッシュにビーフシチュー 楽しい時間 家の暖炉は暖かくて 美味しいクリスマスのお菓子や飲み物に 雪に包まれた森の木々 なにより そこにいたのは、綺麗な歌声を持った少女メアリー 彼女が隣に座り 僕に微笑んでくれた 淡い琥珀の瞳が僕を見つめてる ドギマギして、頬が赤くなるのが、わかる 慌てて貰った熱い飲み物を飲んでむせかえる 「大丈夫?」 「平気!大丈夫!!大丈夫!!」 「私もパリ万博は観たわ 地下に鉄道があって 動く道に出来たばかりの エッフエル搭」 「え!?」 「あ!いえ!私のお祖父様の御話 よく聞かせてくれるから」 「ああ…なんだ…く、クシュン」 「ウフフ、少し早いけど クリスマスギフト」 彼女メアリーは、そっと手編みのマフラーを僕の首に巻きつけた 「夕方にはクリスマス市場で 聖歌隊の歌を唄うのよね 寒いから風邪をひかないようにね ヨハン」 「あ、有難う」 夕方にはクリスマス市場で キャロルを唄って 彼女の隣で、同じく声を揃えて歌を唄う 彼女の傍にいるだけで 幸せだった あの日 数日のちの別れの日が来る事など 知ることもなしに 愉しげな時間はずっとずっと 続くとばかりに思っていた 「外国の寄宿学校に入学するの」 「え」 「春まで、のんびり出来ると思ってたのだけど…」 「父さまの仕事もあるし 言葉や習慣に早く慣れた方がよいから… 寄宿学校の近くの街に住む事になってしまったの」 「今まで有難う ヨハン」 彼女はそっと僕の頬にキスをした まもなく 彼女達は近くの町の汽車に乗り継ぎをする為に 馬車に乗る 「元気でね…ヨハン」 見送りに来てた他の子供達に いつも遊びに行ってた お祖父さんが笑いかける 「また、会いたいものだな」 不思議な表情を浮かべてる 「また明日の向こう側で会いましょう」 意味不明な言葉を投げ掛けるメアリー 彼女が去った後の事 「メアリーに渡しそびれた贈り物をパリの住所宛てに送んただけどね 宛先不明で戻ってきたんだ」 「そうか…」 とお祖父さんは揺り椅子に座ってそう言った 「もう、誰もワシとお前しか 彼女の事は覚えておらんよ」 パイプに火をつけてお祖父さんは言う 「あの包んだ絵を見てごらん」 「40年前にワシが描いた絵だ」 「これ!」 「40年前からメアリーは、あの少女の姿のままだ」 「最初に会った時には、この村に来て一緒に聖歌隊で歌を共に唄っていた ワシの方が少々背が低く 会うときには、厚底の靴を履いたもんさ」 「次に会った時には、二十歳前後の時、パリの街角だった」 「彼女はこう言ったさ 私を誰かと間違えておられるのかしら? それとも叔母かお祖母さんによく似てると言われるの なんて…ね ハンス、明日の向こう側で、また会えたわ」 彼女はにっこりと笑いかけてくれたよ」 「パリでは、馬車に跳ねられそうになった所を助けてくれたよ …他にも何度も 危ない所を助けてくれた 不思議な少女さ」 「ある日、いなくなって また…数十年後に現れた 幼馴染み達は、あのメアリーの事は誰も覚えておらんかった」 お祖父さんの言葉通り 皆があのメアリーの事を忘れていた… 「また会えるかな」 「会えるさ」お祖父さんは笑う それから月日がたち 二十歳になった僕は部隊に入り戦地に向かう みんな戦争の事などわからずに まるで、呑気に陽気に戦地に行った 砲弾が飛び交い 掘った穴に入り、銃で闘う 雨や雪で寒さに震え ただ必死で… 包帯の巻かれた傷口はズキズキと痛む ライフルを握り 意識が遠くなりかける 「ヨハン」懐かしい少女の声 彼女がそっと傷口に触れる 「メアリー」 いるはずのない少女 何故そこに! 彼女は微笑んで立っている 「まだ、そのマフラーを持っていたの?」 彼女がくれたマフラーを指差す 「少々くたびれて、汚れてるわ 新しいマフラーに手袋」 「ねぇ…今日はクリスマスよ あの頃、歌った歌の1つ」 彼女は静かに ‘‘きよしこの夜‘‘を謡だす 僕も その歌を謡だす すると…他の兵士も つられたように同じく ‘‘きよしこの夜‘‘のメロディーを歌う 不思議な事に 皆が ‘‘きよしこの夜‘‘を合唱して… 戦地に歌声が響き渡る 風に流れて この曲に 呼応して返礼を返すように 向こう側の兵士も このクリスマスの曲を謡だす やがて豪から出て 皆が敵も味方も 手を取り合う 今この時だけは… 「メアリーがいない 女の子がいなかったか?」 「? なんの事だ?誰もいないよ」他の兵士が答える 残されたのは 傍に新しいマフラーと手袋 それはクリスマスの奇跡 と呼ばれた出来事の日 人の世に平和と慈しみと優しさがあります事を メリークリスマス ※戦地で起きた実話の クリスマスの奇跡の話の中に織り込みました つまりフィクションではありますが 一部のみ歴史の実話を元に 作られたお話です
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