◇ 第壱話:匣ノ怪 ◇ 

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 ◇ ◇ ◇  不幸にも、朝の通勤通学ラッシュと人身事故が重なった。中も外も人でごった返している駅は、地獄絵図の様相を呈している。都会の恒例行事には、まったくうんざりだ。  長蛇の列のできたバス停を横目に、どちらともなく歩き出す。大学までは、徒歩約二十分。  駅前から出ている大学正門前で停まるバスに乗ってもいいが、数分の距離にジュース一本買える運賃を払うくらいなら歩いた方がいい。貧乏学生なんて、所詮そんなもんだ。  徒歩通学の春樹と、電車通学の俺。大学の最寄り駅をひとつ通り越した先の駅で降りれば、愉快で喧しい幼馴染の住む場所へ辿り着く。  最寄り駅で降りても、たかだか五分や十分そこらしか変わらない通学時間を惜しむはずもなく。大学生になっても、こうして待ち合わせをして、大学へ向かっている。ダラダラと一人で歩いて行くより、馬鹿な友人との大して意味もない会話に時間を費やした方が断然有意義だ。
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