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背筋を冷や汗が伝う。凍りついた喉では、生きるために吸い込む空気すら凶器と化す。ざっと音を立てて引いた血の気に、必然的に足元は不安定さに揺れる。
『危ないよ、お兄ちゃん。黄色の線より前に出ちゃいけないんだよ』
不意に。よろけかけた身体は、後方から逆向きに引っ張る弱い力によって、幼い声とともに、やんわりとした制止が掛けられた。ぐいと後ろへと引っ張られた力に、動かした覚えのない足がぴたりと止まる。
背後を振り返れば、心配そうな顔で俺を見上げる小学生が、ひょっこりと幼い顔を覗かせていた。きょとんとした顔の少女と見つめ合い、なんとも言いがたい微妙な空気感が双方の間に満ちる。
『……線路、落っこちちゃうよ?』
真後ろで通過した急行電車に、黄色の帽子からはみ出た二つ結びが風に煽られて、激しく踊った。小学生になりたての少女に救われるとは、我ながら情けない。
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