◇ 第壱話:匣ノ怪 ◇ 

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 大学生になって三度目の春を本格的に迎える、四月某日。  その日は、最低最悪の出来事によって幕を開けた。春特有のぼんやりとした花曇りの空を見上げて、陰鬱とした顔で長々とした溜息を吐く。朝っぱらから、ありえないくらいツイてない。  (うら)らかな春の日の面影は、どこへやら。周りの人間の災厄すべてを請け負ったのかと思いたくなるほど、それはもう悲惨な一日のスタートを切った。  とっくに不機嫌の域は通り越して、人生諦めの境地に至っていた。こればっかりは、自身の類稀な不幸体質を呪うしかないと頭では分かっているが、理解するのと受け入れるのとでは、また話が違ってくる。  一切の感情が抜け落ちた、死んだ表情を窺い見る者が居ないのが、とにかく幸いだった。この御時世、自分が生きていくだけで、誰もが精一杯。見ず知らずの他人の事情に首を突っ込んで構っていられるほど、人間そんなに暇じゃない。
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