◇ 第壱話:匣ノ怪 ◇ 

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「…………」  怒声かひっぱたく手のひとつ出るかと思いきや、返ってきたのは冷えきった無言の反応だった。  ちょっかいをかけた張本人は、まるきり予想を裏切る淡々として味気ない相手の反応につられて、鳩が豆鉄砲でも食らったような顔をして、不自然に動きを止める。 「アレ? まさか寝てたパターンか」 「寝てねえよ」 「強引に奪い取ったから、拳か蹴りの一つでもスッ飛んでくるかと」 「お望みなら。今すぐ地面に転がしてやる」 「朝っぱらから、親指下げんな。友人には優しくしてくれ」 「何言ってんだ。優しくしてるだろ?」 「歪んでる! だいぶ友情が歪んでるぞ!」  すらりとした長身を腰から軽く折った前屈みの体勢で、ひらひらと顔の前で手のひらを振る、腐れ縁のお調子者もとい千鹿谷(ちがや)春樹(はるき)の手を片手で払う。
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