◇ 第壱話:匣ノ怪 ◇ 

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 ラスベガスのカジノで人生一発逆転を狙って、一瞬にして手持ちの金を無くした人間と俺を一緒にするな。不確かな可能性に縋って低い確率を狙うよりも、堅実に地固めをして、なるべく高い確率で物事を成功させる方が、どう考えたって効率が良いだろうに。  握った拳で軽く春樹の胸元を殴って、差し出されたイヤホンを受け取る。ポケットに入れた音楽プレーヤーと一緒に、必要最低限の荷物しか入っていないリュックサックの中に放り込む。どうせ帰りまで使わないのだ、埋もれたって気にしない。 「朝飯食った?」 「家で食べてきた。春樹は?」 「大家のばあちゃん家で食ってきた。昼飯前には腹減るだろうし、コンビニか購買行こうぜ」 「了解、了解……って、また転がり込んでんのか」 「だって。作りすぎたって言うから」  食事が無駄になるより、残さず食べてくれる人間が居た方が良いのは納得できる。庭の草むしりやら、買い出しやらを手伝っている彼の労力を考えれば、食事は正当なる報酬とも云えるかもしれない。
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