◇ 第壱話:匣ノ怪 ◇ 

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 春樹相手に喋ると、中学高校時代のノリが抜けず、どうにもペースが乱される。馬鹿騒ぎとはいかないまでも朝から騒ぐ俺たちは、今日も今日とて元気が有り余っていた。  何はともあれ。急降下を辿る一途だったテンションは、いつの間にか少し上向き加減になっていた。ローテンションなのは相変わらずだが、それでも春樹に会う前に比べると大分マシだ。 「おはよ。蒼波」 「ああ、おはよう……って。挨拶、遅いだろ」 「俺の呼び掛けと挨拶を、全力でガン無視した奴が居ただけであって。俺は挨拶したからな?」 「……悪かったっつーの」 「なんっにも! 反応返って来なかったから! うっかり別人に話しかけたかと思って、めちゃくちゃ混乱したんだぞ! 許さん」  随分と遅い挨拶に笑い混じりで突っ込めば、口を尖らせた春樹がじとりとした視線を投げる。  悪い悪いと苦笑いで謝りながら、視線を逸らして乾いた笑いを返す。空振りした挨拶の元凶は、そう云えば俺だった。
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