15人が本棚に入れています
本棚に追加
/78ページ
期末テストは明日だ。
もう勉強などしなくていいほど勉強していたぼくと来夢は、学校が終わった後、町に繰り出していた。
そういえば北大路来夢と薬局以外で出かけるのは初めてだな。
来夢が時折入るという喫茶店に入る。
ぼくはアイスコーヒーを頼んで、来夢はアイスココアを頼んだ。
店員の目に、ぼくらはどう写っただろうか。
ぼくの身長は175センチ。
来夢は130センチちょっとしかない。
子供っぽい来夢の顔立ちもあり、とても彼氏彼女には見えないだろう。
仲の良い兄妹にでも思われたかもしれない。
「来人くん、明日は勝負だね」
来夢は微笑んだ。
「そうだな。自信は…聞くまでもないな」
「お互いにね」
「なあ北大路。今さらだけど、なんでそんなに勉強してるんだ?ほかにもっと楽しいこといっぱいあっただろ?」
来夢に聞いてみる。
ぼくは父親が裁判官で、母親が司法書士だ。
どちらかの後を継いで欲しいという両親の願いでひたすらに勉強していた。
だけど来夢は違う。
小さい時に母親が病気で亡くなっている以外は普通の家庭だ。
おじさんだって薬剤師だけど、気のいいお父さんだ。たぶん来夢に勉強を強要などしないだろう。
気になったのだ。何が来夢をそこまで駆り立てるのかが。
来夢はアイスココアを一口飲むと口を開いた。
「場所、変えよっか」
「あ、ああ」
ぼくらは喫茶店から出て、近くの公園に行った。
公園は夕焼けのオレンジに照らせれ、逆光が眩しかった。
すでに子どもたちは帰り、ブランコがわずかに揺れているだけであった。
来夢とぼくはベンチに座る。
しばらく来夢は無言のままだった。
心の整理をしているようにも見えた。
夕焼けのオレンジ色に夜の黒が混じり始めた時…ようやく来夢が口を開いた。
「わたしね、お医者さんになりたかったの」
なりたかった?
医者はわかるけど、なんで過去形なんだ?
「この前、友達が亡くなった話したよね」
「ああ」
「その友達は、まだ世界では治療法が確立されていない病気で亡くなったの」
「…!!」
「お母さんも同じ病気で亡くなったの。でもこの病気の本当に怖いところは、感染はしないけど遺伝するところだった」
「まさか…!」
「うん。わたしもお母さんや友達と同じ病気にかかってる」
最初のコメントを投稿しよう!