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あれから…俺は魔王と戦うのを止めた。
あの戦いが人生で最高の力を出せる最後の舞台だった。
本当はまだ戦い、魔王をたおすまで修行をしたい。
だが…もう36歳。俺の人間としての体力はピークを越えていた。
もっと早くに修行していれば…。
そう思ったが、もう遅い。
ミントは俺が家にいることを喜んでいたが、どこか寂しい気持ちは消せずにいた。
…それからは息子を育てながら、たまにはおふくろに親孝行して、ミントを大切にした。
もう、戦士としての自分の役目はないのだ。
ならば一人の父親として、息子を一人前に育てるのに専念しよう。
そう思っていたが…。
息子が11歳の頃、思いもよらない事を言った。
勇者47歳ーーー
「なあ、父ちゃん。父ちゃんってなんで魔王と戦うのやめちゃったの…?」
「はは…もう歳だからな。魔王も、こんなおじさんが来たら本気で戦えないだろう?」
「なんで…?」
「なんでってそれは教えたじゃないか…お年寄りは大切にしなきゃダメなんだ。それはきっと魔王も同じ…」
「ちがうよ!父ちゃんはまだ戦えるっ!おれの勇者ハロルドは、そんなに弱くない!どんなにおじいちゃんになってもぜったいに魔王をたおすのをあきらめない、本当に強い勇者なんだ!だから…あきらめたらダメ…!ダメだよ…」
「!!」
息子は泣き出してしまった。
…きっと、学校でいじめられたのだろう。
魔王に勝てず、逃げ帰ってきた勇者の息子だと…。
…だけど、ありがとう息子よ。
父さんは逃げていただけなんだ。
年齢を理由に、けっして勝てない敵から逃げていただけだったんだ。
それを、まだ年端もいかぬ息子に気付かされた。
「大丈夫だ…目が覚めたよ。そうだ。勇者ハロルドの剣は、まだ折れちゃいない…」
「父ちゃん…」
ずいぶん重くなった鎧と大剣を背負い、再び修行を始めた。
失われた時を思い出すかのように…。
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