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勇者73歳ーーーーー
あれからもわしの挑戦は続いた。
…もはや我が剣は魔王にかすりすらしない。
老いていく身体が…剣を棄てよと悲鳴を上げている。
歳を重ねるごとに、落ちていく力。
苦しくなる、呼吸。
もはや気勢だけで魔王に挑んでいるだけであった。
…しかし、それもどうやらここが終着点のようだ。
「勇者どの、起きておられるか」
ある夜…。
宿に泊まっているわしのところに、魔王の側近であるガーゴイルが来た。
僅かに開いていた窓を開け入ってきたようだ。
「お前は魔王の…。何用か?」
律儀に窓から入ってきたことから、戦いにきたわけではあるまい。
「勇者どの…あなたの天寿が近づきつつあることを報せに来た」
「…やはりそうであったか」
生と死を司るガーゴイルには、人や動物の寿命を知る力があるという。
…驚きはしなかった。
最近は咳き込むことが多い。
おそらく、肺の病…。
「あと一ヶ月。それがあなたの寿命だ。天へと名を返されるその前に家族と過ごすも良し、心穏やかに天寿を全うするも良し…戦いに明け暮れる必要などないのだ」
ガーゴイルが言うには、魔王もわしの体調を案じているとのことだった。
もう戦うのを止め、戦士ではなく人として逝くようにとの考えだそうだ。
だが、わしは首を振った。
「一度置いた剣を再び取ったあの時より…わしは家族の元には戻らぬと決めた。もはや我が生きる道は、魔王打倒のみ…」
わしがそう言うと、ガーゴイルは
「承知した。だが先程言ったとおり、あなたの寿命は一ヶ月…それまでに考えを変えてもよいとだけ言っておこう。…養生されよ、勇者どの」
ガーゴイルは窓から飛び去って行った。
そしてわしは…一ヶ月後に、最期の戦いに向かった。
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