1.彼の名前

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 子供の頃から身長が高くて、スレンダーと言えば聞こえは良いけど、食べても中々太れない体質の私は、中学生の頃からいつもフェミニンな女性に憧れていた。  いや、フェミニンと言うよりは、もっと可愛いイメージ。  砂糖菓子のような柔らかいフォルムの女の子や、リボンやレースが似合うような、そういう子。  残念なことに大人になっても私にはそういうものがあまり似合わない。  胸だけは大人になって成長したけど、お尻がぺったんこで他が骨ばっているのに、胸だけ出ているのが逆にコンプレックスとなり、いつもつい体のラインを隠すような服を着てしまう。  だから唯一、髪の毛だけは綺麗に伸ばそうと頑張ったし、そうすることで、背筋も少し伸びる気がした。  だけど可愛くて女の子らしい女性を見ると、いつもないものねだりをしたくなる。 「どうやったら朱里みたいにもっと女っぽさが出るのかなあ?」  朱里は、背も小さいし胸もそんなに大きくはないけど、女らしさという点では私よりずっと魅力がある。  それなのに彼女は何を馬鹿なこと言ってんのって顔で、こともなげに言う。 「もっと男の人とセックスしてみたら? 一人の男しか知らないから、そういうつまんないことばっかり気になるんじゃない?」 「ちょっと! 平日から変なこと言わないでよ!」  思わずワインを吹きそうになった。 「私は今日と明日は休みだし、別に変なことなんて言ってないよ」  そう言って朱里はジュースのようにワインを飲み干す。 「実梨に必要なのは新しい出会いだと思うの! そう思って、じゃーん。今日はこの後、リンダの友人を実梨に紹介します! いえーい」  朱里はピースして、赤のショルダーバッグからスマホを取り出した。  リンダというのは、朱里の彼氏だ。ダーリンの変則読みでもしているのかと思ったら、なんのことはなく、名字が林田(はやしだ)さんだったと聞いて納得したのは一年くらい前のこと。  以来、時々私と朱里が飲んでいると迎えに来てくれるリンダさんとは、私も少しは顔見知りと言える。
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