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遠山先輩は、私が六年間通っていた浜中学園のバスケ部の王子様だった。
それは静岡県内にある中高一貫の私立で、地元ではそこそこ偏差値の高い学校として知られている。
先輩と私は三学年違うので、彼が私を知らないのは無理もない。定期的に行われる中学と高校の合同バスケ部練習で何度か先輩を間近に見かけたことがあるけど、学園中の注目を集めるスター選手の彼と違い、私はただの平部員だし、レギュラーに入れたのも中3の一時期だけだった。
しかも彼はバスケが上手いだけじゃなく、成績もいつも学年のトップ10に入っていると聞いて、世の中には天に二物も三物も与えられる人が本当にいるのだと初めは驚いた。
だけど、練習で先輩を見かける度に、きっとあのプレーの裏に死ぬほどの努力があるのだろうと気付いてからは、彼を見るといつも頭が下がる思いがした。
人より恵まれた才能があったとしても、ひたすらに練習しなければシュートは連続で決まらない。彼のコートでの振る舞いは、いつもその後ろに努力の影が見える気がした。
あの当時、学園に居た女子の八割は多分、遠山先輩に憧れていたし、恋をしている子も数え切れないくらいいたと思う。
私もおそらくその一人で、あんなふうに成れたら良いのにと、先輩を見るといつも眩しすぎて目を細めたくなった。でもそれは本当に淡いもので、恋と呼ぶのも恐れ多いほどの小さな想いだ。
「えー、すごい! じゃあ、実梨は中学生の頃、橘さんのことが好きだったんだ? すごいね、初恋の人と再会できるなんて! それもこんな大都会で!」
「ちょ、初恋とか言わないで……! そんなんじゃなくて、ただ格好良くて憧れていたって話だから」
朱里の興奮に、私は圧されてしまいそうになりながらも否定する。
本人を目の前にして、初恋なんて単語を持ち出さないでほしい。
だけど、かつて遠山先輩と名乗り、今は橘さんと名乗るその男性は、大人の余裕って感じでやさしく対応してくれる。
「残念。こんな可愛い女子から好かれてたなんて、全然気が付かなかったな」
「またまた、どうせ今だってモテまくりなんでしょ?」
朱里がワインを片手に尋ねると、橘さんは困ったように笑った。
「まさか。全然だよ。今だってずっと彼女居ないし。仕事が忙しいから、恋人を作る暇なんて全くないしね。そもそも俺、昨日まで関西に居て、やっと東京に復帰できたばかりだから」
「じゃあ、今はフリーなんだ?」
「うん、フリーだよ。可愛い彼女がほしいんだけど」
そう言いながら、なぜか彼は私を見るので、その視線に撃ち抜かれそうになり慌てて目をそらした。
……イケメンの破壊力ってすごい。
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