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(でも、こんなにかっこいいのに彼女が居ないなんてほんとかな……)
そう思いながらも、どこか安堵している自分がいることに私は気がついていた。あんなに朱里に恋人なんか要らないと言いながら、舌の根も乾かない内に隣に座る彼を意識することを止められないなんて、あまりにも恥ずかしい。
横目で橘さんを盗み見ると、彼も私をじっと見つめていたみたいで、思い切り目が合った。慌てて顔をそらしてワインに口をつけ、その動作の不自然さに恥ずかしくなる。
(どう見ても意識してるって丸わかりだよね、こんなの。……どうしたらいいんだろう?)
そう思って助け舟を求めて朱里を見るのに、朱里はリンダさんとなんだかいい雰囲気でやり取りしていて私の視線に気づいてはもらえない。
橘さんはそんな私に、突然話を振ってきた。
「浅見さんて……実梨ちゃんって呼んでも良い? 本当にきれいだよね。彼氏とかいるの?」
「……え!? 居ません! 私、全然モテないですし!」
名前で呼ばれたことと、きれいだなどと言われたことにダブルで動揺して、必要以上に力強く否定してしまった。
「本当? 高嶺の花過ぎて周りが手が出せないのかな? 色が白くて、髪がきれいで、仕草もすごく女性らしいよね」
「…………いえ、そんなこと………」
自分でも首まで真っ赤になっていることは分かっていた。
けれど、かつて誰にも言われたことのないような褒め言葉を、あの遠山先輩に掛けられてるかと思うと、緊張するなという方が無理だった。
すると突然無言のまま、橘さんが私の頬に片手を伸ばし、まるで時間が止まったように彼の動きがスローモーションで私に映る。
ひんやりとした冷たい指が私に触れて、思わず目をぎゅっと瞑ってから、この対応はおかしくないか? と気づいて恐る恐る目を開けた。
すると、目の前の彼はやさしくほほえみながら言った。
「ごめんね。急に触って。睫毛がついてたから……もう取れたよ」
「……あ、ありがとうございます………」
ただの親切に、全力で意識してるって伝えてしまった。
もう、本当に恥ずかしすぎて今すぐ帰りたい……。
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