1.彼の名前

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 私の前職は国内大手化粧品会社白華(はっか)のBAで、3月までは朱里とともに池袋の百貨店に勤務していた。  朱里は私より年齢はひとつ上だけど、専門学校を出てすぐに働いているので、職歴は私よりも先輩で、それなのに偉ぶることなくいつも丁寧に仕事を教えてくれた。  私が前職で販売成績を伸ばせるようになったのは、間違いなく彼女がいてくれたからだ。  敬語を使うと朱理が怒るのですっかりタメ口になってしまったけど、彼女に対する尊敬の気持ちは昔も今も変わらない。  朱里から私の転職祝いをしたいとお昼休みに連絡をもらったときは、まだ水曜日だからと悩んだけど、土日休みの私と平日休みの朱里では、お互いにタイミングを合わせないと今後は中々会えなくなるかも知れない。そう思い今夜は彼女と会おうと決めたのだ。 「でも25歳って色々考えちゃうよね。このままで良いのかな? とか。他にやりたいことがあるかもしれない、とか。  転職するならいいタイミングだったんじゃない?」  野菜スティックにディップを付けながら、朱里が言う。  彼女はいつもさっぱりしていて、時々甘えたり愚痴を言っても、最後にはいつも私の味方でいてくれる。  大人になってからできた友達の中で、一番頼りにしている存在だと思う。 「うん。タイミング的にはベストだったし、絶対入りたかった会社だから、やっぱり嬉しいの。今日ね、名刺ももらったのよ! 「営業」って肩書が入ってる名刺、本当に嬉しかった」 「じゃあ、最初の一枚は私にちょうだい!」  そう言って朱里がはしゃいでくれるので、調子に乗ってトートバッグから名刺ケースを取り出した。  落ち着いたベージュの名刺ケースは、転職して新調したばかりのものだ。  私は朱里の顔の前に両手で名刺を差し出し、頭を下げる。 「株式会社コネクトホールディングス エディケーショングループ 営業三課の浅見実梨(あさみみり)と申します。今後ともどうぞ、宜しくお願い致します」  朱里はそれを受け取って「うむ、大儀である」と笑いながら言う。 「何で急にお殿様みたいになるの?」と返しながら、二人で朱里が頼んだブルゴーニュ産のボトルワインで乾杯した。
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