1.彼の名前

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  「ねえ、このディップ、すっごく美味しいんだけど何が入ってると思う?」  朱里が私に野菜スティックを「食べてみて」と渡しながら尋ねる。  彼女が指を差したディップを人参スティックで少し掬い上げて、舌で確認する。 「味噌と辛子とマヨネーズと……もう一味入ってる気がする。なんだろう……多分、胡麻じゃないかな? すり胡麻か、練り胡麻」 「今度作ってくれる?」 「上手くできるかわからないよ」 「なんでもいいよ。実梨のご飯は美味しいもん」  朱里の上目遣いは本当に可愛い。甘えられると、全体的な雰囲気も相まって猫のような小動物そのものに見える。 「そんなこと言って、彼氏のご飯のが美味しいんでしょう?」  私がそう聞くと、朱里は「比べらんないよー」と言うけど、それは嘘だと思う。  朱里の彼氏はとても料理が上手で、彼女曰く、胃袋で落とされたらしい。  二人は長い付き合いみたいで、はっきりと聞いたわけじゃないけど、きっとそのうち結婚するんだと思う。 「いいなあ。私も朱里みたいに可愛い女子に生まれたかった」  少し酔い始めたのか、そんな言葉を思わず口にしてしまう。 「そういう面倒くさいこと言う女、私は嫌いだけど、実梨の色が白くて長い手足も、私から見たら十分女性らしいよ。それに、昔と比べてメイクがすごく上手になったよね。最近の実梨はKPOPアイドルくらい可愛いよ」 「それは言いすぎだけど、メイクは朱里が丁寧に教えてくれたから……」  BA時代、社内研修でメイク技術は確かに向上したけど、私のメイクの腕が格段に上がったのは、すべて朱里のおかげだった。 「あとはねー、いつも言うけどその唇すっごく好きなの。海外の女優みたいで本当に羨ましい。唇だけ取り替えてほしいもん」  私の唇は上下ともに少し厚みがあって、自分ではそんなに好きではないけど、唇が薄めの朱里は「口紅が塗りやすそうで羨ましい」といつも言う。 「それに髪の毛だって長くてツヤツヤだし可愛いよ。自信持って!」 「……何でそんなに褒めてくれるの?」 「だって今日はおごりでしょ?」 「そんなわけないでしょー」  そう答えると朱里がアイラインを跳ね上げてくすくす笑った。  私の背中まである茶色の長い髪は、少しでも女性らしくなりたくて、長年頑張って伸ばしてきたものだ。  まとめやすいようにゆるくパーマを掛けて、普段は後ろでひとつにまとめたり、サイドをまとめてハーフアップにしている。
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