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「ねえ、このディップ、すっごく美味しいんだけど何が入ってると思う?」
朱里が私に野菜スティックを「食べてみて」と渡しながら尋ねる。
彼女が指を差したディップを人参スティックで少し掬い上げて、舌で確認する。
「味噌と辛子とマヨネーズと……もう一味入ってる気がする。なんだろう……多分、胡麻じゃないかな? すり胡麻か、練り胡麻」
「今度作ってくれる?」
「上手くできるかわからないよ」
「なんでもいいよ。実梨のご飯は美味しいもん」
朱里の上目遣いは本当に可愛い。甘えられると、全体的な雰囲気も相まって猫のような小動物そのものに見える。
「そんなこと言って、彼氏のご飯のが美味しいんでしょう?」
私がそう聞くと、朱里は「比べらんないよー」と言うけど、それは嘘だと思う。
朱里の彼氏はとても料理が上手で、彼女曰く、胃袋で落とされたらしい。
二人は長い付き合いみたいで、はっきりと聞いたわけじゃないけど、きっとそのうち結婚するんだと思う。
「いいなあ。私も朱里みたいに可愛い女子に生まれたかった」
少し酔い始めたのか、そんな言葉を思わず口にしてしまう。
「そういう面倒くさいこと言う女、私は嫌いだけど、実梨の色が白くて長い手足も、私から見たら十分女性らしいよ。それに、昔と比べてメイクがすごく上手になったよね。最近の実梨はKPOPアイドルくらい可愛いよ」
「それは言いすぎだけど、メイクは朱里が丁寧に教えてくれたから……」
BA時代、社内研修でメイク技術は確かに向上したけど、私のメイクの腕が格段に上がったのは、すべて朱里のおかげだった。
「あとはねー、いつも言うけどその唇すっごく好きなの。海外の女優みたいで本当に羨ましい。唇だけ取り替えてほしいもん」
私の唇は上下ともに少し厚みがあって、自分ではそんなに好きではないけど、唇が薄めの朱里は「口紅が塗りやすそうで羨ましい」といつも言う。
「それに髪の毛だって長くてツヤツヤだし可愛いよ。自信持って!」
「……何でそんなに褒めてくれるの?」
「だって今日はおごりでしょ?」
「そんなわけないでしょー」
そう答えると朱里がアイラインを跳ね上げてくすくす笑った。
私の背中まである茶色の長い髪は、少しでも女性らしくなりたくて、長年頑張って伸ばしてきたものだ。
まとめやすいようにゆるくパーマを掛けて、普段は後ろでひとつにまとめたり、サイドをまとめてハーフアップにしている。
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