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驚いたような気も、当然のような気もした。
彼はいつも私が最善を尽くせるよう、配慮してくれた。自分を犠牲にしても。それは彼が有能な秘書だからと思っていた。
「……ごめんなさい、気づいてあげられなくて」
「いいえ、公私混同してはいけないと隠していましたから。必死で」
鈍感な花にだけ、その隠しごとは成功していたようだ。佐倉の気持ちを聞いてしまった今、振り返ると、花の全ての言動は彼の庇護の元にあった。
佐倉が花の頭を撫でた。いつも見ていた大きな掌。顔が近づいてきたので、花はあわてて顎を引く。
「え、あの、私、おじさんとキスしたことない」
花の言葉に佐倉がむっとした。
「失礼ですね、面と向かって」
目の前に来たのはあなたですけど、花が心の中でつっこむ。
「あなた、何歳?」
「お嬢様の6歳上です」
佐倉は実年齢よりずっと若く見えた。
「ごめんなさい、私もとっくにおばさんだった」
「お嬢様は、私の心の中で、ずっと出会った時の高校生のままです」
リップサービスも完璧だ。さすが佐倉。
「でも大人には大人の良さがありますよ」
もう一度ゆっくり顔を近づけると、佐倉の携帯が鳴った。出ないわけにはいかない。
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