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「はい佐倉。ああ田中さん」
花に分かるようにあえて名前を呼ぶ。
「わかった、今から行く」
携帯を切ると小さくため息をつき、花を見る。
「事務所からです。明日委員会に提出する資料の作成が煮つまってると。今から戻ります」
腕時計を再び身につけながら話す。
「私も行く」
「お嬢様は明日に備えて少し休んで下さい」
立ち上がってスーツの上着をもう一度羽織る。
「ベッドまでお連れしたいですが、寝室から出られなくなる可能性があるのでやめておきます」
「大人なんでしょう?」
花はくすっと笑って立ち上がった。すると佐倉が近づいてきて耳元に屈み込んだ。ほんのりいい香りが漂う。
「……大人をからかうな」
それは、佐倉が花に対して口にした、はじめての敬語以外の言葉だった。
「ベルガモットの香り……ブルガリの香水?」
「お嬢様が私のすぐそばで、好きな香りに包まれるようにと」
そして、明日の朝7時に迎えに来ます、と言い残して出て行った。
佐倉を見送り、テーブルの上の和菓子のポイントカードを手に取った。
キスしたら、ひとつハンコを押す。ハンコを押したらまたキスする。これはポイントを貯めたくなるわよ、絶対。成年用も作ろうかしら。
花はニヤけながらカードを眺めた。
*The end*
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