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Ⅰ
「……以上、少子高齢化が所得税に及ぼす様々な影響とその対応について、清水花衆議院議員の講演でした。議員、ありがとうございましたぁ」
司会の女性のマイクパフォーマンスに小さな会場は盛り上がる。花は選挙区の商店街店主の集まった商工会議所の会議室での講演を終え、にっこり微笑んで壇上を降り、聴衆に手を振りながら部屋を出た。
「花ちゃん、お疲れ様。いい講演だったよ」
「ああ! 小林さん! 来てくれたのね。身体の痺れはとれたの?」
30歳過ぎの花を『ちゃん』付けするのは父の代からの支援者だ。廊下で年配の男性と、軽くハグして背中をたたき合う。
「いやあ、ちょっとましけどね、相変わらず。歳のせいかな」
「まだそんなに歳じゃないわよ、小林さんは」
「花ちゃん、先代は元気なの?」
別の男性から声がとぶ。
「元気よ、心配かけてごめんなさいね」
「ほんとに後継ぎが立派に育ってよかった」
「私? まだまだこれからよ。皆さんの助けがないと。よろしくね」
花はその場の人間と握手を交わしながら愛想を振りまいている。
「議員、そろそろ時間です」
公設第一秘書の佐倉が声をかける。30歳代後半の、落ち着いた雰囲気の男性だ。
「佐倉君、花ちゃんのこと頼むよ」
「大丈夫よお、イケメンの佐倉君がつきっきりなんだから」
「イケメンは関係ねえだろ」
周りの人間から軽口がとび、笑いが起こる。
佐倉は軽く微笑んで、花に近づき、車を回してあります、と軽く背中を押した。
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