太陽を止めた王の話

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 【礎の昭王、不老長生の法を欲して広く方士を求める。金剛真人(こんごうしんじん)なる仙人、いづこかより現れ、王宮を訪ねる。  昭王、仙人に曰く、 「我が不老長生の法を求めるは我がためにあらず。長く病に苦しむ我が后を救うためなり」と。  仙人、 「卦を見るに、王妃が近日中に死するは天命なり。いかなる薬、仙丹をもってしても、寿命を延ばすことはかなわじ」  王怒り惑いて、 「ならば真人、なにゆえに我が都を訪れたか」と問う。  我に秘法あり、と仙人は答えて曰く、 「一に金の法あり、二に銀の法あり。金の法はたやすく、銀の法は難し。王、いずれを求めるや」 「まず金の法を聞かん」 「夫の寿命を切りて妻の寿命に継ぎ足すが金の法なり。ただ夫死ぬのみ。妻、二百年の寿命を得るべし」 「ならば銀の法について述べよ」 「黄金百万貫と未通の乙女千人を集むべし。乙女の髪剃りて縄をない、溶かした黄金をもってこれとあわせて金の鎖となすべし。千人の乙女の首切りてその血によって冷やし固めよ。これ金剛鎖なり。羽毛よりも軽く、金石よりも強し。火によって溶けず、鉄刃によって斬ることも能わじ」『礎書昭王伝』より】  王は言った。 「我が求めるのは不老長生の法だ。金剛鎖なるものに用はない」  仙人は答えて、 「金剛鎖を用いるは太陽を捕らえるためです。太陽を捕らえ、天の半ばにとどめ置けば、その時より一日一夜も過ぎることはありません。寿命を数えることはできなくなり、冥府の官吏も仕事を失いましょう。これは、天下万物が等しく不老長生を得る大秘法にございます」 「処女を求めること、これはたやすい。黄金百万貫を集めるのは困難だが、我が国の総力を傾ければできぬことではない」 「加えてこれは、天下万民に長生を与う法でございます」 「いかにもそうだ。皆喜んで持てるものを差し出すであろう。私利私欲のために逆らう者は、王法を持って処断すべきであろう」 「決まりですかな」 「うむ。我は銀の法を求める」 「王のお布令があれば、おのずから黄金と処女は集まりましょう。早急にご下命を。私は明朝また参ります」 「待て真人、明朝はいかにも早すぎる」 「お信じなさい。必ず集まります」   明朝参りますと繰り返して、仙人は王宮を出て行った。  
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