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Prologue
いつかこんな日が来るって
わかっていた。
わかっていたのに辛いのは
何故だろう。
流れる涙を拭うこともせず
わたしは夜の東京を彷徨う。
良かった。
都会は優しいな。
どんなに泣いても
振り返る人も声をかけてくる人もいないから
思いっきり泣ける。
それでもふとアイメイクが気になって
手首で涙を拭いて立ち止まり
ショーウインドの中に映る自分を見た。
あまりに惨めで情けない顔に
鼻を伝って心の底にも一滴、涙が流れ落ちた。
ああ、冷たい。
これはきっと罰なのかな。
彼を繋ぎ止めたくて、
彼の浮気なんて知らないふりして
結婚してしまおうとして私がついた
幾つもの嘘に対する罰。
ビルの合間からいつも見えるはずの月は
跡形も無く雲に隠れて見えなかった。
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