1 キス魔な年下君

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1 キス魔な年下君

泣いて街を好きなだけ彷徨って、涙を乾かした後、 自宅に帰る電車に乗った。 最寄りの駅で降りて、駅前のコンビニに寄り大好きなレモンサワーのロング缶をいつもより一本多く買う。今日は飲む。明日は休み。ニ本飲み終わるまでに彼が他の女性とベッドで愛し合っていたことはアルコールに流してしまおう。 コンビニ袋をカサカサさせながら、マンション前でエレベータを待つ。五階まで上がって左に曲がる。三列目が自宅のドアだ。ショルダーバックに指先を突っ込んで鍵を探しながら時計を見ると二十三時を指していた。 萌歌は都内の大型書店チェーンで働いている。本好きが高じて就職した。同じ店ではないが、高校時代は休みの日にアルバイトを二年程したこともある。 けれど、最近は本を読むのが好きになれない。活字を捲るのが億劫なぐらいに萌歌はいろんなことに疲弊していた。短大を二十歳で卒業してから、今年で五年目。業務に慣れてきた分、役割も代わり、アルバイトの指導係を三か月前から任されているのであるが、これがなかなかうまくいかず、萌歌の頭を悩ませていた。指導者となってから、かれこれもう、辞めてしまったアルバイトが今日で三人目だったのだ。 非は私の教え方にあるのか…と萌歌は誰に責められたわけでもないが、そう思ってしまっている。何より店長である佐々木に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。明日、指導係は辞退させてもらおう。私は誰かを指導するような器じゃないんだ、と。 そんな事をつらつらと思いながら、鍵を探し当て、鍵穴に差し込んで鍵を開けると、白いスニーカーを脱いだ。
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